頭の中のさまざまのこと

すきなこと、考えていること

石田ショーキチ年忘れライブに参加した話

2023年12月23日、町田ノイズにて開催された石田ショーキチ年忘れライブに参加した。

 

 

今までましゃ*1しか推してこなかった私は今でもびっくりするんだけど、ショーキチさんのライブは小規模なカフェ&イベントスペースみたいなところで開催されることが多く(マジで本人との物理的距離がめっちゃ近い)、その場合大抵購入はぴあなどのチケットサイトではなく、先着メール受付になる。特にノイズでは整理番号も無く、まさかの先着順での入場*2。そのため、今回の私みたいに「まあ開場30分前に町田駅に着けばええやろ」とたかを括ったばかりにそれを見越してダラダラしてふつうに遅刻し、開場時間ぴったりくらいに現地着となると、入場待機列がなかなかの長さになっているのである。うーん、怠惰。でもこの場にいられるならそれだけで良し。

あちこちで交わされるファン仲間たちの挨拶を眺めつつ、入場。受付してくださるマネージャーさんの手元には、参加者の氏名と備考が手書きされた紙が数枚、あとは小さな金庫と筆記用具。完全に小劇場の受付すぎて毎回ふふってなる。何なら小劇場受付のほうがまだデジタル化されている。これ個人情報覗き込み放題だから本当はよくないと思いつつ、結局アナログがシンプルだし楽なんだよな。難しいところです。お釣りのないようにチケット代を払い、毎回ギチギチにいっぱい作ってくれている席に場所を見つけて座る。今回は下手(しもて)、真横。

 

私のすぐ左をゼロ距離で通ってショーキチさんがぬるりと入場。伸ばし続けている髪を後ろでひとつにまとめて、つばのあるハットを被っている。半袖だったけど、「ここに座ると寒いな」と言ってすぐ上着を取りに行っていた。13時開演だけど冬だからね。ご挨拶のあと6弦ギターを鳴らして、自身がプロデュースしている地元ガールズコーラスグループ、まちだガールズ・クワイアに提供したWinter love。サビのLaの高音を危なげなく零されて悶絶。ショーキチさんのファルセットだ〜い好き。ゆらゆらと身を任せているうちに、MOTORWORKSステレオ・ラヴ!!ショーキチさんがメインボーカルをとっている曲。シンセ無しでも聴かせる厚みで、最上段のレベルで光るラヴが君に届きすぎで良すぎ。oh my baby can you hear me? の歌詞をoh no と歌っていて、「いま」のショーキチさんが歌っているんだと感じてすごくよかった。からの続けてデビューユニットSpiral LifeLET ME BE。神セトリ確定。この曲すごく好きだから嬉しかった!解散したユニット(バンド)の曲を今でも演奏してくれると、本人にとって黒歴史じゃないんだと思えて勝手にほっとする。

ここ最近忙しすぎて練習の時間が取れなかったと嘆くショーキチさんに、このクオリティーでそれは嘘やろの空気が客席に流れる。お金と時間を取るならそれなりのクオリティーを担保しろやの意見は正義なんだけど、ショーキチさんは結局ちゃんとやってくれるのであまり心配していない。ぬるっと復活したScudelia ElectroMY OLDEST NUMBER、そしてビートルズの新譜の話になった。私はビートルズを履修していないので共感はできなかったけど、ひどく感動したらしくてよかったね〜と思った。明るい面を押し出してきたのが嬉しかったみたい。ほんとは今もう俺たちでもジョンの音声だけ抜き出したりとかできるんだけどね……やらないけど……と言いつつ、それでカバーを2曲やってくれた。そのあと、「なんか(俺に)やらせたい曲あります?」と急にリクエストを募って、お客さんから1曲声が上がったのに、「はいではまた今度ということで……」みたいなことを言ってひと笑いとっていた。こういう時何も言えないタイプだから、ちゃんと伝えられる人ほんと尊敬する。「今日のために持ってきた曲があるから、それをやったあとリクエスト(の曲を)やります。この曲を弾き語りでやってる人見たことないから、世界初かもしれない。小学4年で初めて買ったレコードの曲。小学4年だよ?クソませてるよね」と笑いながら、Night Fever。この曲は個人的に、幼少期に狂ったように毎年クリスマスの時期に観ていた伝説の番組「ミッキー&舞ちゃんの魔法のクリスマス」で登場した曲として深く心に刻まれているので、聴いている最中ずっと頭の中でミッキーが踊っていた。

5:00過ぎくらいから流れます

Night Fever演奏のようす

このあと、リクエストの静かの海をやって前半が終了。ライブであんまり聴いたことないから嬉しかった!リクエストしてくださったかたありがとうございました。

 

後半、ショーキチさんが新しく結成した、アコースティックギターボーカル3人組グループThree Taller Hatsが登場。なんとショーキチさんはお着替えをしていた。キューバからやってきました!の設定で、全員開襟半袖シャツにハットのスタイル。今まで組んだユニットやバンドの中でいちばん音量が小さくて、アンプ*3を通して音出すと大きくてびっくりするらしい。ほかは全部爆音なのか?経験ないからわからないんだよな。去年のクリスマスライブのtrioはほぼアンプラグドだったし。爆音浴びさせてくれよお!

そんな笑いをとりつつ、まちだガールズ・クワイアの新しいカバーアルバムで歌わせたから背中を見せるとかなんとか言い、THE BEACH BOYSを2曲やってくれた。全員コーラスうま男(お)。ショーキチさんは普段iPadコード譜を見てるだけなのに、グループ3人に譜割りをするにあたりたぶんめちゃくちゃ編集?編曲?をしたみたいで、ガチの譜面を譜面台いっぱいに広げていて、普段との差に思わず笑った。私の側にいたアキラ・ウィルソンさんの左足がリズムに合わせてぴょこぴょこ跳ねていて可愛かった。手拍子も煽ってくれて優しい。エルトン・ジュンさんが新調したというシグネチャーモデルのアコースティックギターはボディも音もきらきらしていた!

I Get Around演奏のようす

Wouldn't It Be Nice

演奏後、クワイアのメンバーが3人来場していることに触れて、「何か言われそうだな、"今のところ違いましたよね"とか」と言いつつ、Three Taller Hatsとしての出番を終えたあとにクワイアに飛び入りでステージに立ってもらい、We Wish You a Merry Christmas荒野の果てにをピアノ伴奏してくれた。前者はクワイアのメンバーたちが歌い始めた直後に「ごめん!キー違ったね」と中断して、#(シャープ)ひとつでテイク2。ショーキチさんはデビュー当時からコーラスに一家言あるミュージシャンだっただけあり、見事に鍛えられたとても綺麗なコーラスだった。このような宗教色のある歌の荘厳さというのは、コーラスが一役買っているのだろうなと思う。後者を歌う前は「シャープ2個です!」とクワイア側から申告があり、「了解!」と返す場面があった。あ〜普段からこうやって一緒にお仕事をしてるんだな、という新たな一面を垣間見てしまい謎の照れが襲う。

We Wish You a Merry Christmas

2曲のあとで、ショーキチさんが伴奏で参加する次のクワイアのライブの告知があって、カンニングペーパーもなくすらすらと日時や告知の文句が出てきていてすご……と感心していたら、11時開演というワードをショーキチさんが拾って、「え!?そんなに早いの!?じゃあ、(現場に)何時入り!?」「早朝です!」「え〜〜〜〜……!?……聞いてないよ……なんか冷めちゃったな……」とマジ萎えしており、申し訳ないけれど笑った。

そのあとはずっと好きでScudeliaでカバーもしているStrawberry SwitchbladeSince Yesterday。ちょっと端折っていたけど相変わらずピアノとの相性が良すぎて何度聴いても気持ちいい。MYTHS OR PHYSICS?も大好きでとても嬉しかった。メロディーが全部ツボなんだけど、特に「世界中の瞳がゆっくり目覚める朝」と、サビの「総ての人の望みを適えて」が最高。頭の中でうっすら再生するCD音源と寸分違わぬ音程と、それよりは少し低くなった、けれど伸びやかな歌声が目の前で生まれていく、その横顔を夢心地で見ていた。

本編最後は、Thank You, Baby。デビューから30年も音楽をやれていること、大事なバンドが2つも再び動き出せたこと、ここ10〜15年くらいで横のつながりがたくさんできたこと、全部に感謝する締めくくりの歌だった。Spiral Life時代はL⇔R*4くらいしか一緒に音楽やれる友達がいなかったらしい。失礼だけどショーキチさんも車谷くんも、Spiral Lifeも友達少なそうだもんな。けれど今でもふたりとも音楽を続けていて、つながりを保っている友達も、新しくできた友達もいて良かったね……と謎目線の感動と共に聴いていた。しっとり終わるかと思いきや、次にかき鳴らされたのはMOTORWORKSの真髄、(Love Is Like A) Heat Wave!思わず歌いそうになるのをめちゃくちゃ我慢した。エレキですらないギター1本で大盛り上がり。まさにmy blood pressure got a hold on meだよ!

 

退場していくショーキチさんを追いかけるようにすぐに始まる、アンコールの手拍子。間もなくThree Taller Hatsが出てきてくれて、Happy Xmas(War Is Over)。実際は終わっていなくて、今この瞬間も誰かが殺されている戦争があるのに、安全なあたたかい部屋で音楽を聴いていることの後ろめたさを感じずにはいられなかった。SNSで停戦の署名はもちろんしているけど、たぶんほかにもできることがあるんだと思う。考えなくてはいけない。ダブルアンコールはひとりで残って、「MOTORWORKSThe Endをやろうと思っていたけど、湿っぽくなるからやめます」と言ってSATURDAY NIGHTをやってくれた。明るく打ち出してくれようとする心がとても嬉しかった。サビの「SATURDAY NIGHT」のフレーズを急に歌わされて客席がわたわたしたけど、ショーキチさんがコーラスしてくれてなんとかなった。一緒に歌えたの嬉しいうれしい!素敵なプレゼントだった。

 

30周年記念ライブは全日程チケットバトル敗北して残念だったけど、ショーキチさんにとってたいへん実りある日々になったみたいで本当によかった。お客さんたちがグッズいっぱい買ったので会社も持ち直したらしい。今後も買います。2024年もその先も、ずっと健康で長生きしてほしい。もうそれしか望むべくもない。

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有志の記憶を頼りに作成。Three Taller HatsがやったThe HappeningsのWhen Summer Is Through が配信してなくて涙。あとBEATLESカバーってこれだったっけ?まあいいや、楽しんで!

 

 

 

 

*1:福山雅治のこと

*2:ただし、キャンセル待ちや立見枠で参加の人は、通常枠のお客さんたちが全員入場したあとに入ることになる

*3:エレキギターエレキベースをつなぐスピーカーのこと

*4:えるあーる。Spiral Lifeのレーベルメイトだったバンド

町田直隆さんへの手紙

町田直隆さんへ

 

はじめまして。私は数年前から石田ショーキチさんのファンをやっている者です。今年のMOTORWORKSのライブは、チケットバトルに敗れ、配信で視聴しました。あなたがリードボーカルを務めるにあたって、ショーキチさんから長い長い手紙を受け取って……いないそうなので、私が長い長い手紙を書いています。

 



 

 

 

私がMOTORWORKSを知ったのは、黒沢健一さんが亡くなってバンドが眠りについたあとでした。もちろんひどく落ち込みました。その件については過去記事に書きましたので割愛します。

過去記事

 

ですから、バンドが復活すると知ったときの私の喜びは説明できないほどでした。遠方の友から突然すてきな手紙が届いたような、何十年も前に見た晴れた日の木々のきらめきを思い出したような、私が詩人なら間違いなく詩を書いていたような、そんな気持ちでした。それはあなたが参加することを知っても変わりませんでした。

 

考えてみたのですが、それは私が最も恐れていたのが、私が黒沢健一さんのパフォーマンスを生涯で一度も目撃することはないという事実の再現ではなく、MOTORWORKSとその輝きが遠く過去のものになり、消費され尽くして、やがて消えていってしまうことだったから、ではないかと思っています。

言うまでもなく、バンドの輝きはどこにもあります。誰かの記憶、記録、インターネットの海の片隅、バンドメンバーからもお客さんからも、その光はいつまでもなくならないでしょう。間に合わなかったバンドはまるで星のようです。誰かはその星に降り立ったことがあるのです。そして1光年ずつ遠く離れていって、過去から届く光を、過去と現在とで受け取ることができます。しかし、私には過去がありません。だからたぶん、さみしかったし、不安だったし、恐れていました。

あなたはこの恐れを吹き飛ばしてくれました。

あなたは輝いていました。バンドがそこにいて、音楽が鳴っているのを見ました。それはとても素敵なことでした。今でも思い出すことができます、狭いステージの上から轟音の光が放たれて、フロアにぎゅうぎゅうのお客さんたちがそれらを反射して、誰もかれもみんな命を燃やしていたのを、私はノートパソコンの画面に張り付くようにして見ていました。

私は黒沢健一さんを知りません。私は彼に間に合いませんでした。ですからあなたが既にそのように臨んでくれたように、あなたと彼をどうやって比較できるのでしょう。私はただあなたのパフォーマンスをたいへん楽しみました。私はただあなたを目撃しました。ライブを観ながら、思い出せなくなるのを望んですらいた、たぶんずっと欲しかった「過去」が、一瞬ずつ私に生まれていくのを感じていました。

私があなたにお伝えしたいのは、私がMOTORWORKSを諦めなくてもよいこと、私にMOTORWORKSを待たせてくれること、私がとうとうMOTORWORKSに間に合ったことは、私にとって胸いっぱいの幸運と幸福であるということです。

 

 

7光年先から届く光だけを眺めていた日々は、2023年9月2日に終わりました。あなたが終わらせたのです。本当にありがとうございました。

 

 

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追伸

次は世界中のお客さんが全員参加できるハコでお願いいたします。

 

 

フルカワユタカのソロツアーに参加した話

2023年11月25日、フルカワユタカのソロ10周年記念tour『これから出逢う幸福に僕は名前をつけた』横浜公演に参加した。

フルカワユタカはDOPING PANDAというバンドのフロントマンで、私が最近恋に落ちた人です。

参照

 

以来、『DOPING PANDAのライブに行く』と『フルカワユタカのライブに行く』のふたつをバケツリストにぶち込んでいて、前者は早々に叶える幸運に恵まれた経緯がある。今回は後者。一般枠でチケットバトル頑張ってよかった。ありがとう私の行動力。

DOPING PANDAのライブに行った話

 

横浜の天王町にあるスタジオオリーブでのスタジオライブということで、勝手もわからないままとにかくチケットを取った。何か暗黙のルールがあって周りに迷惑をかけたり、ユタカの顔に泥を塗ることになったらどうしようとSNSで「スタジオライブ  服装」などと検索しまくるも何も出てこず、もうどうにでもなれの精神でいくことにした。

 

 

当日。未知のイベントに参加するにあたってテンションをアゲにアゲていくため、前々から気になっていたクソデカい指輪を買った。試着させてもらったときマジでデカくて笑顔になった。ピンクのアイテムを持ちたい気分だったし、私の普段のカジュアルな装いでこの指輪を嵌めたらめちゃくちゃかわいいと思う。たいへん満足した。店員さんに「着けて帰ってもいいですか?このあとライブがあって……テンションアゲたくて……」と言ったら、「もちろんどうぞ!ワクワクが滲み出てますよ!」と言われた。出ちゃってたか。へへ。ニヤニヤしながら退店した。いい買いものだった。最高!

クソデカくて最高なスワロフスキーの指輪

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サイコーアイテムを手にライブ会場へ向かった。でも万が一周りの人にぶつけるとご迷惑なので、指輪はほかの荷物と一緒に最寄り駅のコインロッカーに預けて、スマホ、財布、チケットだけボディバッグに移してそれだけ持って出た。アウターも預けるか迷ったけど、整理番号が呼ばれるまで外で待機することを考えると、体調を崩した状態で推しを含む大人数と長時間同じ空間に滞在することの周りへのリスクは犯せなかった。

 

スタジオオリーブは住宅街の一角にある。実は大学生の頃近くに住んでいて、何度か個人練習で利用したことがある。記憶ではもっと古いアパートだった気がするけど、そうでもない階段にぐるりと並んで待機。体の不自由な人にこれは無理だろう。映画館や芝居小屋もそうだけど、ライブハウスやスタジオも、もっと色んな人にアクセシブルになるといいのに。

上から、整理番号を呼ぶ声が降ってくる。「いま〜す」と返事をしていそいそと駆け上がる。受付で、この日のために崩しておいた小銭でドリンク代を払い、ドリンクチケットを受け取る。そしたら、

「(今日のライブでは使わない)あちらの部屋を開放して荷物置きとコート掛けにしていますので、よろしければお使いください」

と仰っていただいた。控えめに言って神対応。あなたに幸あれ。貴重品をバッグに移してありがたくアウターを預けた。ドリンクカウンターに並ぶ。ボードにドリンクのラインナップが書いてある*1

私は体質的にアルコールがだめで、炭酸も苦手なので、選択肢は実質ひとつになる。

「すみません、ノンアルの……フル……キャワワください」

ちょっと恥ずかしかった。味はとてもおいしかった。

 

ライブが行われるスタジオルームには、サウンドホール*2がハート型になっているアコースティックギターが1本と、マイクスタンドが置かれていて、後ろの壁には、小さな白い電球が等間隔に付いている電飾が何本も、上から垂らされていた。

説明がへた

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客席エリアは、前方に椅子席、後方は立見。私は下手側で立見。防音扉も閉めないほどかなり多くのお客さんを入れていて、ありがたいと同時に、騒音でスタジオに苦情とか入らないといいな……と思った。ちびちびとフルキャワワを飲みながら開演を待っていると、扉のあたりにニッコニコの渡邊忍さん*3がいるのに気づいて慌てて目を逸らした。プライベートで観に来たのかな。ユタカ、愛されている。

スタジオオーナーの一瀬さん*4から開演前の前説*5があり、お客さんはみな頷きながら真剣に聞いていた。そして、満を辞してユタカが呼び込まれた。ユタカは白いラウンドカラーのシャツの上に襟付きシャツを重ね着していて、細い金属フレームの眼鏡がかわいかった。私の真後ろを通って入場した。そんなことある?

前半はDOPING PANDAの曲をたくさんやってくれた。弾き語り向きじゃないと思ってたのにさらっと高クオリティでお出しされて、自分の驕った不見識を恥じた。最高!ギターがうますぎる。てっきりソロ名義の曲で固めてくると思ってたからドーパンを復習していなくて、というかドーパンの曲まだぜんぜん履修できていなくて、Lovers Socaの「Cause I love you!!」の合いの手を入れられなくて後悔。でも、愛してるよ、ユタカ!!あと癒着を公言している友達バンドthe band apartDEKU NO BOYをカバーして、「ビールでも飲もうぜ」のところでびっくりするくらい美しく笑っていた。ほかの曲でもビールの単語が出るところは毎回ちょっと微笑んでいた気がする。今夜はおいしく飲んでほしい。

MCでは、

「(お客さんと)こんな(近い)距離でやったことないから、ずっと虚空を見てる。今日目が合ったと思った人は絶対勘違いだから!」

と言い、実際歌っている間はマジでずっと斜め上を見つめ続けていて爆笑した。お客さんと距離が近いとき「お客さん全員と目を合わせて歌ってあげることができる!」ではなく、「やば……目合わせんとこ……」の方向になるのウケる。シャイか。

でもおしゃべり自体は結構してくれて、再結成前のドーパン時代、態度が悪すぎる暗黒期の只中にいた自分について、「 "あの時お前に抱いていたのは殺意一択だった" と言われた。そんな証言が未だに後を断ちません!!」と話して客席は爆笑だった。私も思わず笑っちゃったけど、逆に考えると、今のユタカにはそれをちゃんと受け止めるだけの心情があって、なおかつ証言(?)をした人たちもそれをわかっているから本人に直接話したわけでしょう、相手がそうやってもう一度出会い直してくれるというのは、ユタカの根本的な人柄に依るところがあるのではないかなと思う。オリーブでずっとライブをやりたかったという話も出て、一瀬さんも「ありがとー!!」と叫んでいてすごくよかった。これからも出会い直しが順調にいくといい。

それから爆笑MCはもうひとつあって、詳細はあまり思い出せないけど、要約すると「ある対バンのリハーサル時、マイクからキツめ(曰く「ハードめ」)の唾液臭がしたため、ライブハウスに備え付けのものだろうと思い、大変恐縮しながらスタッフに交換希望を伝えたところ、自分の持ち込み機材であることが発覚し、大恥をかいた」というもので、これも客席ドッカンドッカンの大爆笑だった。マイクのあのあみあみのところ、普通は定期的に洗うらしいという学びを得た。マネージャーさん、夏ライブのあとは洗ってあげてください。ユタカは「オレはほんとに口臭ないから!オレはラベンダーの香りだから!!」と叫んでさらなる爆笑を呼び、挙句この話の直後に演奏が予定されていたCrazyの冒頭の歌詞「I am sorry me」があまりにもこの状況とマッチしすぎていて逆に歌えないので急遽セットリストを変更すると言い出して、全員の腹筋が崩壊、というカオスが爆誕した。なんとか別の曲をやりきって、前半も終わり、せっかく客席も少し落ち着いていたのに、退場するユタカが口元を押さえながらお客さんたちの間をそそくさと通り抜けていくのでまた笑った。次回以降のイベントはラベンダーの香水をつけて臨んでほしい。

ところで、休憩中に私の前にいたお客さんのスマホのホーム画面が目に入ってしまったんだけど、iPhone標準装備のプライドフラッグのやつで、とても嬉しくなった。私も同じのを使っている。あのお客さんが当事者なのかアライなのかはわからないし、私が知る必要もないのだけど、思わぬ心強さがありがたかった。

 

後半はソロ名義の曲がメインだった。私が思い出せないんだけど何かの曲の歌詞が、ドーパンの曲の演奏を求められることへのアンチテーゼであることを話してくれて、そういうのを散りばめているのでよかったらほかも探してみてくださいと言われた。歌詞を大事にするタイプと、響きとかを重視して歌詞の意味は二の次にするタイプと、作詞家には色々なタイプがいると思うんだけど、少なくとも今のユタカは前者なのかな。考察するのが楽しいタイプのオタクが喜びそうでいいなと思った。あとこれも曲を思い出せないけど、ライトハンド*6をやってくれた瞬間があって、アコギでもできるんだ(やるんだ)!?と驚くと同時に一瞬でワッ!てわくわくして楽しかった。歌詞を横浜だかオリーブだかに変えてくれた歌もあった。ユタカ、お客さんと本当に目を合わせないけど、ときどき笑顔がこぼれて、眼鏡に光が当たってきらきらして、とても楽しそうだった。それでずっと私も楽しかった。

 

アンコールでは渡邊さんが呼び込まれて拍手喝采だった。いそいそと人混みをかき分けて満面の笑みでステージに立って開口一番、「気持ち悪いなあ!」と言い出して、ハ!?と血の気が引いたけど、お客さんみんな笑っていたのでこれが通常運転なんだと気づいた。

「メイニア*7って気持ち悪いよな。ユタカに対する忠誠心が強すぎるっていうか、愛しすぎてるっていうか。支えようとしすぎる。しかも、ユタカの周りのアーティストたちも応援しだすじゃん。オレ(が所属してるバンドASPARAGUS)のライブにも来てるらしいのよ。なんか……ありがとね?」

とあっけらかんと話して笑いをとっていて、愛あるイジリをするタイプか……苦手だ……と思いつつ、笑顔はかわいかった。というか、本当は正式にゲスト出演を打診されていたけどASPARAGUSのスケジュールがきつくて断ったらしいのに、前半1曲目から観に来ていて大丈夫なのだろうか。まあいいか。

ユタカと渡邊さんのセッションが始まった。周りはみんなわかっている雰囲気だったので焦った。なんにも知らないんですけど!?ユタカのアコギを抱えた渡邊さんがニコニコしながらユタカに絡みまくっていた。

渡邊さん「ユタカはさあ!」

ユタカ「はい!」

渡邊さん「世界でいちばん!」

ユタカ「はい!」

渡邊さん「アツい男だよな!」

ユタカ「アツいです!」

そして始まる1曲あたり正味30秒未満のコラボ曲たち。3曲もあるんかい。もう次のソロアルバムのボーナストラックに入れたらどうですか。そして「ユ・タ・カ!」の合いの手はみんなでやることができた。

当日の様子

「世界でいちばん大好きなアニキ」なんて歌われたら一生守っちゃうでしょうが。渡邊さんユタカを幸せにしてあげてください(the band apartの荒井くんと同じ気持ち)。まあこういうところがキモいと言われてしまうのだろうが、ユタカほど「愛しはじめる」以外の選択肢がない男もなかなか珍しいと思う。せめてこのことに自覚的な、節度を守ったファンでいよう。

盛り上がりに盛り上がった渡邊さんのターンが過ぎて、このままではもちろん終われないので、2曲くらいユタカがひとりでやってくれた。確かこの幸福に僕は名前をつけたYesterday Today Tomorrow。どちらもとても好きな歌だから嬉しかった!

かたちの無いものに名前をつけることにはたとえば、その名前に全て押し込められてしまって本人も知らぬ間に変容する場合があるとかの良くない面がもちろんあって、一方で輪郭を与えることができたり、そこが居場所になったり、名前があるからこそ、それを除いたときに残るものを確認できるなど良い面もあると思う。ユタカはこの曲では名付けることを選んだなと思った。どちらがいいとか悪いとかではなく、ひとつを選んで(= "それ以外を選ばない"ことを選ぶ)それを引き受けるにはパワーが必要なので、それだけのものがユタカにあることが眩しい。勇気があるな〜と思う。このままなくさないでほしい。

Yesterday〜ではユタカにお願いされてみんなで「wow wow wow wow wow」部分を担当した。これは私も歌えた!嬉しかった。明るい歌で打ち出されるのが今夜らしいなと思った。ユタカも最後まで楽しんでくれたと思う。私もずっと楽しかった。

 

終演後はスタジオをバータイムにしてくれて、ゆっくりしていてもよかったのだけど、おなかがすいたので帰ることにした。ピック*8セットをひとつ買った。確か世の中にはピックをチャームにできるアイテムがあったはずだから、探してみるのもいいかもしれない。2枚セットだから、ひとつは使おうかな?ユタカみたいに弾けたら楽しいだろうな。誰かのライブに行くたびに毎回同じことを思い、そして碌に練習しない日々をなんとかしたい今日この頃。それはともかく、スタジオオリーブさん、素敵な夜をありがとうございました!

足元の機材。たぶんチューナーと、エフェクター*9ひとつ!

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おまけ

終演後に撮ったセットリストを基に作成。ただし、前述の通り、爆笑MCの影響で急遽セットリストを変えているので、この通りの順番では実際は演奏されていない。曲順覚えている人いたら教えてください!

どうやってアコギ1本でやるんだ、っていう曲がたくさんあるでしょう、もう思い出せないけどとっても素敵だったんだよ!またやってほしいし、また行きたいな。

 

 

 

 

 

 

 

*1:これはあくまでもスペシャルドリンクのラインナップであり、これ以外にもアルコール飲料やソフトドリンクも用意されていた

*2:アコースティックギターのボディに開けられた穴。円形になっているものが多い。アコースティックギターは内部が空洞になっており、そこで響いて増幅された音がサウンドホールが出てくることで、スピーカーを使わなくてもそこそこ大きい音量になる

*3:ASPARAGUSというバンドのギターボーカル。ユタカと一緒に、LOW IQ 01くんのバンドスタイル「LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS +」に参加している

*4:ELLEGARDENの細美くんが兼任しているバンドMONOEYESと、渡邊さんがいるASPARAGUSのドラマー。まったく知らなかった……

*5:注意事項などの説明。休憩を挟んで前後半の二部制であること、休憩中に追加でドリンクを購入する場合は、カウンターで直接支払ではなく受付でドリンクチケットを買ってほしいこと、お手洗いは男女共用であることなどがアナウンスされた

*6:ライトハンド奏法。ギターの弾き方のひとつ。タッピングとも言う。指で弦を叩いたり離したりして高速で音を出して演奏する

*7:DOPING PANDAのファンのこと。ドーパメイニアとも言う

*8:ギターやベースを弾くときに使うアイテム。小さな三角形をしたプラスチック製の板?で、利き手の親指と人差し指で挟んで持ち、弦をジャーンってやって演奏する。形や材質は色々ある。今回買ったものはティアドロップ型だった

*9:ギターやベースの音色を変えることができるアタッチメントのひとつ。音を歪ませたり、エコーをかけたり、色んな種類がある。足でスイッチを踏んで使う

LITE/ZAZEN BOYSのライブに行った話

2023年11月3日、ライブハウス新宿MARZにて開催された『Crushing』に参加した。LITE(ライト)とZAZEN BOYS(ザゼンボーイズ)の対バンだった。

 

一般発売で滑り込み購入したチケットだったので、整理番号は90番台だった。MARZのキャパシティは約300人で、公演は満員御礼とのことだったから、わりと早めの番号と言えるだろう。会場内のロッカーは少ないそうなので、どこにも何も預けない前提で、サコッシュに最低限のものだけ入れて身ひとつで行った。

すっかり日が落ちたあとで街を行くのは夜遊びみたいでドキドキする。番号が呼ばれるまで外で待機していると、周りの参加者同士で挨拶やら会話やらが始まって、ああライブ仲間なんだなと思った。世の中にはあるらしいじゃないですかそういうのが。私には今のところいませんけれども。それでもそれはとってもいいことだなと思いながら夜風に吹かれていた。いろんなところでいろんなふうな繋がりを持つのはたぶんいいことだと思う。待たされながら、東京スカパラダイスオーケストラの『銀河と迷路』をちょっと思い出した。

待たされて見てた冴え渡る空の月  青い迷路  照らし出して

 

対バンの時は、たぶんどちらのバンドのお客さんなのかデータをとるために、受付で「今日のお目当ては(どちらのバンドですか)?」と質問される。私は迷った末に「LITEです」と答えた。はじめて観るから本当に楽しみにしていた。ZAZENがかっこいいのは過去にCDJ*1で脳天に一撃くらって知っているので。受付の方はドリンク代を受け取ってチケットをもぎって、記念ですと言ってピクチャーチケットをくれて優しかった。うれしい〜!ちなみに後ろのお客さんはお目当て質問に「両方です」と答えていて、そういうのもあるのか……と井之頭五郎*2になった。

 

オレンジジュース片手に意外とすんなり前方エリアに潜り込めた。ソウルメイトおすすめの下手側(客席からステージを見たとき、左の側)、スピーカーの前。すぐ目の前でプレイが見られるぞ!と喜んだものの、このあとすぐに後悔するはめになった。

というのも、スピーカーのそばは爆音すぎるという当たりまえ現象が起きたからである。ZAZENのメンバーが出てきてくれて演奏が始まった瞬間に「あ、これはまずいな」と思ったものの、身長的にはそこがベストポジションだったのでよそへ移ることはできなかった。音ぜんぶかっこよくて最高だけど、this is 向井秀徳*3が歌うたびにスピーカーから音が壁みたいに迫ってきて私の頭蓋骨がゆれる、血が血管ごと痺れる。しかも彼らはMCをほぼやらない。「マツリスタジオからやって参りました、ZAZEN BOYS」は5回くらい言ってたけど。主宰のLITEへのお礼も言ってたけど。たぶんあと1曲浴びてたら吐いてた。音で攻撃するタイプの敵のエグさを実感できて勉強になった。本日の学び:音量は本当に人にダメージを与えることができる。

そういうわけでへろへろになりながらもZAZENのステージはとても楽しかった!変なタイミングで止まったり始まったりする音を完全に支配下に置いて、金属と窒素のふるえで音楽をやっちゃうバンド、最高すぎるよな。それにしても絶妙なサイズ感の白シャツを着こなしてテレキャスターを弾くthis is 向井秀徳、かっこよすぎだろ。私も歳をとったら、ああいうグレイヘアと眼鏡でテレキャスターで遊ぶのをやりたい。そう、this is 向井秀徳ってテレキャスター使いなんだよな。私もそうだよ!仲間だね!あとベースも本当に良すぎ。全身で鳴らしてる感すごくて、あんな音と一緒に演奏できたらきっと楽しいだろうなと思った。新曲も2曲やってくれて、とても好きな感じのやつだった。新しいアルバムに収録されるみたいだから楽しみ。調べたらアルバム発売は12年ぶりなんだね。ましゃ(福山雅治)には6年8ヶ月待たされたウケる過去があるんだけど、上には上がいたってわけ。元気が出ちゃうね。

「バラクーダ」と「チャイコフスキーでよろしく」を演奏してくれた

 

転換。私の前に立って楽しんでいたお客さんは、「スピーカーやばいわ。こっちの耳聞こえない」と笑って、反対側の耳だけでライブ仲間たちと会話をしていた。すな。病院へ行け。と言いつつ私も満身創痍だったので、取り急ぎ音楽聴く用のイヤホンを装着した。専用の耳栓を購入を検討すべきかも。

次はLITE。ソウルメイトから教えてもらったバンドで、聴いてはいたけどお顔とか人数も何も知らなかった。ベースの人が途中でマラカスみたいなやつをシャカシャカやっててよかった。ギターの人もシンセ弾いたりしてて、このバンド……器用すぎる。ギターボーカルの人は「今日来た人はさ、変拍子だいすきだろ。おれもだいすきなんだ。ZAZENの変拍子の血が流れてるからさ」と嬉しそうにしていてかなりよかった。

ギターボーカルの人「今日は大事なお知らせがふたつあります」

ギターシンセの人「はい先生」

ギターボーカルの人「ひとつ。1月にフルアルバムが出ます」

お客さんたち「フゥ〜〜〜!!」

ギターボーカルの人「ふたつ。2月、LIQUID*4でワンマンやります」

お客さんたち「フゥ〜〜〜!!」

ベースの人「いま言いたくなっちゃったから言うけど、アルバムの話が出たけど、まだ全部できてないから。だからいま発表したの勇気要ったと思うよ」

え???いま11月ですけど?????衝撃の事実を発表したあと、「(完成させることを)公約(にします)ってことで。公約だから頑張るから!」で締めてて笑っちゃった。初日が先に決まってるから何が何でもなんとかせざるを得ない追い込みスタイル、展示会設営日2週間前の私じゃん。一気に親近感わいた。同じクラスにいたら絶対話しかけないタイプだなとか思ってごめん。何らかのきっかけで意気投合したいよ。

ところでギターボーカルと書いたけど実はLITEはインストゥメンタル*5バンドで、でもたまに歌もうたう感じでややこしくて、本人も「次の曲はいちばん歌が多くて……インストバンドって何だろうっていう……」と途中自虐しつつたくさん演奏してくれて嬉しかったし、シンプルに楽しかった。音が良すぎ。揺れるの楽しすぎ。絶対好きになれると思ってチケット取ってよかった。あと演奏中にスタッフさんが写真撮影でうろついててよかった。SNSや公式サイトに写真を載せるのは大事です。

 

終演後、LITEとZAZEN BOYSが両方出てきてセッションか挨拶かするかなと思ってたらどちらもなくて爆笑した。LITEはアルバム作らないといけないもんな。解散、解散!私も夜の新宿をあとにした。とっても楽しい夜をどうもありがとうございました!

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*1:カウントダウンジャパンの略。毎年末に日本で行われる、冬の大規模室内音楽フェス

*2:ドラマ化もされた人気マンガ『孤独のグルメ』の主人公。外食をする時、お店にいるほかのお客さんの注文内容に聞き耳を立てて、このせりふをモノローグで言うことがある

*3:日本のロックバンドZAZEN BOYSのギターボーカル、むかいしゅうとく。ライブ中のMCでこう名乗るので、私もこれで呼んでいる

*4:東京・恵比寿にあるLIQUIDROOMという名前のライブハウスのこと

*5:歌詞がない曲のこと

リタ・カニスカがクィアだったらいいのにという話

リタ・カニスカという名前のキャラクターがいる。2023年11月現在放送中の、スーパー戦隊シリーズ最新作、王様戦隊キングオージャーの登場人物である。

あらすじはこうだ。

宇宙の片隅にある、私たちが住む地球とよく似た星、チキュー。そこは5つの国で構成されており、それぞれ王がいる。王たちは、古くから伝わる予言『バグナラク(注:かつて人類と戦って敗れ、地底に追いやられた種族)が2000年の時を経て蘇り、人類を滅亡させる』に備えて、共にこの脅威に対抗すべく同盟を結ぼうとしていた。しかしバグナラク復活のほうが一足早く、はじまりの国シュゴッダムが襲われる。

シュゴッダム城下の児童養護院で暮らす青年ギラは、大混乱の中、国王ラクレス・ハスティーに助けを求める。が、ラクレスにはある思惑があり、破壊されていく街を眼前にしながらも一向に手を打たない。ギラは失望と怒りに駆られ、王たちだけが持つことを許される剣オージャカリバーを奪い、ラクレスに切先を向ける。そしてクワガタオージャーに変身し、敵を倒すことに成功する。その後、ラクレスへの反逆罪で追われるギラだったが、邪悪の王としてラクレスから王座を奪うことを決意する。

このように、キングオージャーはスラムのガキから王になれ*1的な "王道" の物語なのだが、同時にものすごく "政治" をやっているところが面白い。どのくらいやっているかというと、

「五王国のひとつ、農業の国トウフの王殿様カグラギ・ディボウスキ実妹スズメは、ラクレスの婚約者候補としてシュゴッダムのコーカサスカブト城に住んでおり、実質人質である。そのため、カグラギはラクレスの要望通りに政治的暗躍を行うことがある」

「人間とバグナラクの共存を望む、2つの種族のミックスである長命の語り部にして狭間の王ジェラミー・ブラシエリは、過去に予言や物語を執筆したが、それが現在まで伝わり続けた結果、それこそが長年にわたる人類からバグナラクへの根拠なき恐怖、憎悪、差別の温床に意図せずなってしまっていた」

という、現実世界に直結しまくっていて大人が大ダメージを食らう設定があるくらいやっている。小さい人たちを全く子ども扱いしないこの「国」「国同士」というものの容赦ない描写が、キングオージャーの魅力のひとつだ。

 

ところで、リタは五王国のひとつ、北の国ゴッカンを治める王であり、パピヨンオージャーに変身*2して戦う。ゴッカンは年中雪と氷に覆われていて、国を越えて重犯罪者を裁く国際最高裁判所と収監設備があり、リタは裁判長を兼任している。このことから、ゴッカンは絶対中立の立場を貫いており、他国に対して自国の不利益・利益となるはたらきかけを行わない、なかなか難しい国である。そんな不動の王リタの詳細設定は下記の通りである。

  • 15年前に起きたチキュー規模の大災害「神の怒り」がきっかけで、幼くして王にならざるを得なかった過去があり、「慎重で臆病、だからこそ大事なところは間違えない」という前王の評価のもと、重責を負い続けている
  • 唯一の癒しは、白い長毛に覆われたイエティのようなマスコットキャラクター・もっふん*3を愛でること。自室はグッズであふれ、巨大ぬいぐるみに自分でアテレコして自分を励ましている(「(アテレコ)リったんがんばれ〜」「うん、リタがんばる」など)
  • 左目は黒、右目はアイスブルーのオッドアイ。右目は常に前髪で隠している
  • 基本的に寡黙。絶対中立を厳守する意図もあり他者と積極的にコミュニケーションを取ろうとしないが、人間嫌いというわけではなく、他者には敬意を持って接する。が、低い声や淡々とした話し方もあり、融通がきかない冷たい人物と見られることが多い
  • 口元を覆う高い襟、革手袋など、肌の露出がほぼ無い
  • オージャカリバーは背中に真っ直ぐ縦に背負うスタイル
  • ストレスMAXの時(「ヴァッ!!!」)や気合いを入れる時だけ、突然大声で叫ぶ
  • にらめっこ最強

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え??????魅力的すぎん????????夢???????私の性癖透視しました??????????

そんなわけで、すぐにリタが好きになった。そして観ていくうちに、リタはクィアなのではないかと思うようになった。

 

スーツの話をする。スーパー戦隊では、女性キャラクターが変身して戦う場合、変身後のスーツにはスカート状のデザインが施されるのが通例である。

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2020年放送「魔進戦隊キラメイジャー」のキラメイピンク。グリーンも女性キャラクターで、同様のデザインが採用されていた。名誉のために言っておくと、キラメイジャーは「人はそれぞれ自分のキラメキを大切にすべき」というメッセージのもと、周りからどう見えていようと自分の大切なものを選ぶことを描いており、性別や性格に対する他者からの押しつけやまなざしを好意的にとらえたり、またそれを内面化してしまうような描写はなかった。加えて、以前放送の仮面ライダーエグゼイドでは男性キャラクターたちにのみあてがわれていた「優秀な医者」という属性を女性であるピンクが担っている点は、前進と言える。でもハーフパンツはどうなのとは思う。グリーンは陸上選手という設定だったので、彼女の衣装がハーフパンツだったのはむしろ良かったと思うのだが、そこに合わせる必要はなかったのでは。いやでも好きなデザインのユニフォームを着ているだけなのかもしれない。わからん。

しかしキングオージャーは全員等しくスカートなしのスタイルだ。

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リタの衣装マジでいいよね。防寒の観点から必然性のあるデザインで説得力があり、キャラクター性にも合っている

いわゆる「女性」然とした見た目や振る舞いをするキャラクター、芸術と医療の国イシャバーナの女王ヒメノ・ランでさえそうである。もちろん、スカートをはいていないからクィアであると言いたいわけではない。現実世界でも、女性表象の人がスカートをはかない場合その人はトランスジェンダー*4もしくはレズビアン*5である、といった思い込みは誤りです。スカートを纏うのが好きではないだけのシスジェンダー*6女性もいます。私のように。

 

キングオージャー自体もしくはリタのクィア性として気になるところのひとつに、恋愛要素がほぼ皆無であるという点がある。前述の通り、女性であるスズメは男性であるラクレスの婚約者候補という立場であるし、スズメが一方的にラクレスを好いているような描写はあったが、トウフの国益のために演技をしている可能性があったため微妙なところだし*7、五王国のひとつ、テクノロジーの国ンコソパの王ヤンマ・ガストがヒメノ初登場回で彼女にちょっと好意を表すような振る舞いをするシーンがあったが、それきりになっている。あとシュゴッド*8同士で片思い的な描写も一瞬あったが、同様にそれ以来触れられていない。リタに至っては一瞬の描写すらない。このように、恋愛感情を伴う関係性がほぼ描かれておらず、しかもその僅かな描写を蒸し返してこないところが、アセクシュアル*9とアロマンティック*10を今のところ自認している私にとっては、ストレスが少ないつくりになっている。もし意図しているのだとしたら大変ありがたい。

加えて、リタは性別が明らかになっていない。より正確に言うと、性自認*11性的指向*12が不明である。公式サイトのキャラクター紹介でも、ヒメノが「女王」と書かれているのに対し、リタは「国王」という表記になっている。女性あるいは男性として〜といった自認する性別を明言するセリフや、恋愛感情/対象に言及したりするなどの、自分のジェンダーアイデンティティを開示する、つまりカムアウトにあたるシーンは今のところなく ─シスヘテロ*13の人は無意識なんだろうけど、彼女/彼氏/嫁/旦那の存在を口にすることはカムアウトなんですよ─ 周りがリタに対して、特定の性別の人間に対してだけしがちな振る舞い(例えば「女/男のくせに」「(敵に向かって)女に手を出すとは〜」と言ったりとか)をするシーンもない。「〜だわ」「〜のよ」という話し方もしないし*14、敬語も使わないし、座る時は膝を合わせないし、周りもそれを当然のように受け入れていていちいち言及しない*15

 

リタとモルフォーニャの関係も実にクィアに見える。

リタにはモルフォーニャという女性(表象)の側近がいて、執務をサポートしている。が、リタは基本的にしごでき人間なので、戦闘を含む大抵の業務をひとりでこなしてしまう。モルフォーニャは内心そんなリタや自分に思うところがあるのだが、口には出せないでいる。しかし、ある時、ギラに「助けは無用だと(リタが)言ったのか」「言葉にできない思いは、体でぶつけるんだ」と言われたことがきっかけで、大規模戦闘の前に自室にいたリタを訪ね、もっふんが話しているという体で「世界が終わっちゃうなら、誰かの力を借りたっていいじゃん。もっふん(私)は、リったんと一緒にいたいよ」と伝え、もっふんの腕でリタを抱きしめるシーンがある。

リタがモルフォーニャに気持ちを返す場面もある。生きて帰れるかわからない戦いにモルフォーニャを巻き込まなければならなくなった時、それを察知して逃げようとするモルフォーニャに壁ドンかまし「これは仕事じゃない。公平でもない。私のために、一緒に戦ってほしい」と真っ直ぐ伝えたのである。さらに「あ〜〜………」と躊躇うモルフォーニャを震える手で抱きしめ、「……ずっと、一緒だから」と告げる。モルフォーニャは少し笑って、「………はい」と答える。

注:壁ドンやハグは、相手との関係性や状況によっては、相手に恐怖を与えてしまうことがあるので、基本的には同意を取ろう。

 

 

このように、公式がリタに向けるまなざしには、特定の性別のキャラクターにだけ期待されがちな役割や、特定の性別の人間であれという期待がほとんど含まれていない。私はリタがノンバイナリー*16か、アセクシュアルとアロマンティック、あるいはこのうち全部または複数のアイデンティティを持っているのではないかと思う。私はシスジェンダー女性なので、ノンバイナリー当事者としての言及はできないししてはいけないが、後者の当事者として、誰かのアイデンティティを勝手に推測することの暴力を知ったうえで、しかし、そうだったら嬉しいな、と思う。

アセクシュアルアロマンティックあるあるとして、

「恋愛をしたことがないなんて変だ/ありえない/人として大事なものが欠けているんだ」

「まだ本当に好きな人に出会っていないんだね」

「恋愛が要らないなんて強がり/負け惜しみでしょ」

「愛を知らないなんて薄情だ/かわいそうだ」

などなどのありがたいご意見をお見かけしたり言われたり、自分で自分にこのように言い聞かせてしまうことすらあるが、いわゆる恋愛感情や性愛を感じないだけであって、私たちは家族愛や友愛を感じたり、それを大切にすることができる。また、恋愛/性愛パートナーシップを持たないからといって、このクソッタレな世界を生きていくにあたり、あらゆるパートナーシップや他者とのつながりを必要としないわけではないし、拒絶しているわけではない。ひとりでなんでもやれるわけじゃない。ひとりで平気なわけでもない。先に挙げたリタとモルフォーニャのシーンはとても象徴的だと思う。誰かに自分の世界の一員でいてほしい。だからリタは応えたのだと思う。私にはそれがとても嬉しかった。

 

そのように在ることや居ることを誰にも侮辱されず、矯正させられず、憐れまれず、抑圧されず、なんの不利益もなく、なにと引き換えにするでもなく、何も損なわず、ただそのように在ることについて説明を求められることもなく、視聴者にも説明せず、リタがそこにいて他者たちの中で生きていることが、毎週私を喜ばせている。恋愛なしで生きていく、それはとても自然なことで、リタも私も完璧だ。私とリタが似ていたらいいのにと思う。私と同じものをリタも持っていてくれたらいいのに。ああ、リタ、クィアだったらいいのにな〜〜。

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おまけ

物語が第二章に突入したので髪を切ったそうです。素敵だよ。こないだはお誕生日おめでとう。私と1日違いでとっても嬉しい。

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*1:チャニング・テイタム主演映画「キングアーサー」のキャッチコピー

*2:余談だが、「変身」というかけ声は法律上仮面ライダーしか使用できないため、スーパー戦隊は多くの場合、戦隊名にちなんだかけ声で変身する。キングオージャーは「王鎧武装」(おうがいぶそう)である

*3:イシャバーナにて、子ども向けアニメ「もっふんといっしょ」が長年放送されており、CVはヒーロー番組御用達声優の大塚芳忠。作中ではフォーツカ・フォーチュンという名前になっている。実はこのアニメは、「神の怒り」の際両親を一度に亡くし王位に就いた幼いヒメノの心のケアのために、周りの従者たちが始めたものである

*4:出生時に判断された性別と、自認する性別が異なる人

*5:性自認の人で、かつ同様に女性を自認している人が恋愛対象である人

*6:出生時に判断された性別と、自認する性別が一致している人

*7:ラクレスはギラとの決闘裁判に敗れて崖から転落して以来、遺体が見つかっておらず、死亡扱いになっているのだが、つい最近、スズメはラクレスのこと結構ちゃんと好きだったのでは…?という描写があった

*8:王たちが操る、守護神のような立ち位置のロボット。王たちが搭乗し移動や戦闘に使用するものが各国1体ずつと、似せて作られた補佐的なデミシュゴッドも複数体ある。パイロットとは相性があり、誰でも搭乗できるわけではない。ラクレスに命じられて制御技術を確立させたのはヤンマ。複数のシュゴッドが合体することで巨大な人型ロボット・キングオージャーになり、巨大化した敵と戦う。なぜかギラだけシュゴッドたちと意思疎通ができる

*9:他者に恋愛感情を抱かない、もしくはほぼ抱かない人

*10:他者に性的な魅力や欲求を感じない、もしくはほぼ感じない人

*11:自分で自分の性別をどう思うか、という概念

*12:どんな人が恋愛対象であるか、という概念。フェチを指す性的「嗜好」と発音は同じだが意味は異なる

*13:シスジェンダーかつヘテロセクシュアルの人のこと。出生児に判断された性別と自認している性別が一致しており、かつ異性が恋愛対象である人

*14:ヒメノはする。それがステレオタイプで害悪であると言いたいわけではない

*15:ただ、リタを演じる平川結月(ひらかわゆづき)さんは公式YouTubeでのインタビューにヒメノ役の村上愛花(むらかみえりか)さんと共に出演し、「女性陣として〜」みたいなことを仰っているので、平川さんの解釈としてはリタはどちらかというと女性を自認するキャラクターなのではと思う

*16:性自認が男女二元論に当てはまらない人、当てはめたくない人など

久しぶりに帰省した話

母が墓参りに行くというので、数年ご無沙汰している私もついていくことにした。

 

墓は生家の近くにあり、生家には現在父親がひとりで住んでいる。父に会って世話になるのは複雑だが仕方ない。数年前、とあることがきっかけで父にギャンブルで多額の借金があることがわかり、家を追い出したのである。

私は父を許していないし、そもそも許すとか許さないとかの話でもない。詳細をここに書くつもりはない。私は父にもう興味がない。それなのに会えば父は屈託なく笑顔を見せるし、食事も奢る。私たちにいい顔をしたいのだ。ここぞというときに人に謝罪もできないくせに見栄を張るこういう態度が気にいらないが、寿司に罪はないので大人しく払わせた。寿司はとても美味しかった。寿司はいつ食べてもいい。ちなみに、食事中の話題は、田舎あるある1*1:ヤバい親戚、あるある2:ヤバい隣人、あるある3:60代でも若者扱いされる町内会、あるある4:近隣住民の動向にやたら詳しい住民(なんで知ってんの??ってことを何故か知っている)、の豪華4本立てでお送りされました。

 

家に着いたらまず持参した位牌を仏壇に供え、挨拶をした。道中の無事をありがとうございました。ご無沙汰しており申し訳ありませんでした。ただいま帰りました。そんな感じ。特定の信仰を持っているわけではないけど、こういうときは何となく、そういうものの存在を自分の中に感じる。

完全に家を自分の城にしている父は、いつの間にかコーヒーミルと、豆と、あの注ぎ口の細いシャレたやかん的なものを買い揃えており、私にコーヒーを振る舞った。そんなカネがあるなら私に返せやと思いつつ、味は嫌いではなく、クソが…と思いながら飲み、ベースをつま弾きながら話すギター値上がりの話に相槌を打った。座るソファの影にネックが取り外されたギターだかベースだかのボディと、そのネックが見えた気がしたけど、無視した(テメェ買ったんか!?)。父はもちろんアマチュアだし、知識やスキルが何十年前で止まっているとはいえ、ちょっとした音楽の話ができるのが楽しいと感じてしまう自分が嫌になる。父も楽しそうに話す。これで家庭崩壊クソッタレギャンブラーじゃなければ、素直に会話を楽しめたのに。本当に残念だ。

 

田舎の風呂場は寒い。まず廊下が寒い。ヒートショックまっしぐら。というわけで父を斥候に出し(一番風呂に入らせて風呂場を温めさせ)、そのあとで数年ぶりに生家の風呂に入った。床のタイルが陶器?磁器?なので、人が使ったあとでも少し冷たい。シャンプーとトリートメントがボタニカルのやつで、マジで調子に乗りすぎだろとキレながら使った*2。脱衣所も寒いので早々にリビングに戻った。生理中だったので、父に汚物処理させるのも忍びなく、使用済みナプキンは100均で買ったサニタリー袋に入れて持ち帰ることにした。生理がある人、大変だよね。みんなお疲れさま!

私は血で汚すと悪いのでパジャマは持参したが、母は田舎あるある5:(故)祖父母が買ったクソダサいパジャマを着て寝た。田舎の二階は寒い。敷布団、タオルケット、毛布を使った。

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田舎あるある6:子どもが幼少期に使っていて未だに捨てていないダサいタオルケット*3

久しぶりに隣に人がいる状態で眠った。母は速攻で寝落ちており、疲れたのだなと思った。そういえば新幹線のホームで寒いというので握って温めた手も指も細く、手の甲のしわは高齢者のそれだった。久しぶりに触れた母の手の感触に否応なく年齢を感じ、ちょっと覚悟した。けれどまあどんな覚悟も実際の死の前では無意味なので、その時が来たら大いに泣いてやろう。そう思いながら寝た。

 

 

 

見知らぬ天井とは言わないが、かなり久しぶりに見るそれをしばらく眺めた。今日はメインイベントの墓参りを午前中に済ませなければならない。起きた。血はつけずに済んだようだ。階下からミルで豆を挽くゴリゴリという音が聞こえる。田舎あるある7:バリアフリーのバの字もない造り ─急勾配の階段─ を降りて、コーヒーをもらった。するとランチを一緒にするだけのはずだった叔母が突然訪ねてきた。田舎あるある8:こういうときは報連相しない。

仕方がないので父の車に同乗させ、墓参りから一緒にした。この叔母も色々あって私は心底軽蔑しているのだが、私も大人なのでそんなことは言わず、適当に会話して過ごした。

車窓から見える景色がいちいち懐かしい。祖父母が贔屓にしていた和菓子屋、おいしい料理屋、少しだけ通ったやたらでかい小学校、ささやかすぎる川、もう疎遠になって顔も覚えていない幼馴染の家のあたり、あそこが全てだった公園、子ども会をやった会館。仏花を買う農協すら懐かしすぎて感慨深い。急に冷え込んだので、朝から灯油ステーションには人が絶えない。田舎あるある9:灯油ストーブが主流。

 

墓参りはスピーディーに終わった。花を替えて水を入れ、落ち葉を払い、蝋燭と線香をあげて、手を合わせる。ご無沙汰しており申し訳ありません。これから帰りますので、道中お守りください。また来ます。よろしくお願いします。という感じ。この墓の管理問題、父母が存命のうちになんとかしといてほしい、と念を押しておいた。どこかに移すとしても魂抜きとか面倒だよ〜。勘弁してほしい。

ランチは、叔母から親族の近況を聞きつつ無事に終わった。最後の支払ジャンケンで叔母が優勝したので父母と一緒に大爆笑した。ぜったい私たちに奢らせるつもりで誘ってきたくせに、自分が優勝しちゃうのうける。もっと高いもの食べておくんだった。

父にそのまま近くの駅まで送ってもらった。年末年始は来るのかと聞いたら行くと言う。楽器店を覗きたいと言っていたので、付き合わされるかもしれない。アコギが気になるらしい。どの口が言ってんだマジで。

 

帰りは爆睡のうちにあっという間に関東に着いた。お夕飯は作る気がなかったのでお弁当を買って帰った。おわり。

 

 

 

 

 

*1:この記事に登場する田舎あるあるは、あくまでも私個人の観測範囲内のことであり、日本国内すべての「田舎」と呼ばれる地域の性質を表すものではありません

*2:製品に罪はない

*3:キャラクターはかわいい

ときどき思い出す温度の話

ときどき思い出す温度がある。

 

私は大学生の一時期、倉庫内軽作業のアルバイトをしていたことがある。

色々な現場に行った。高級靴の梱包、マタニティウェア通販のピッキング、冷凍食品の印字確認、などなど。いわゆる日雇いみたいなやつだ。天井が高くてやたらにでかい倉庫はおもしろいし、行き交うフォークリフトもおもしろかった。少しの工夫で作業効率に違いが出たり、初めてやることでも午後になると少し慣れてきてスピードが上がったりするのは楽しかったが、基本的に単純作業なので、なかなかしんどく感じる瞬間もあったりした。

 

そんな現場では、日本以外の国や地域にルーツのあるのであろう人たちも大勢働いていた。

 

たぶんその日の現場の終わり頃だったと思う。いつものように最後にちょっとした掃除をみんなでしていた時、外国ルーツであろう女性(表象)がひとり、笑いながら私の肩に触れてきたことがあった。

私とその人が何を話したのか、それともたとえばちょっとゴミを引き取るとかぶつかりそうになって避けたとか、そんなおしゃべり未満のやりとりがあったのか、何にも覚えていないけど、そのとき肩に感じたあたたかさだけをずっと覚えている。

たぶん嬉しかったんだと思う。あの人が今もどこかであたたかいままだといいなとときどき思う。