頭の中のさまざまのこと

すきなこと、考えていること

買いもの大冒険の話

私は本当に服を買わない。調べたところ、バンドTシャツ(これはいーっぱい買っちゃう!)、部屋着や仕事服、下着、靴下などを除けば、最後にお洋服を買ったのはなんと2022年11月、映画『ベルリン  天使の詩』の天使さまたちみたいな、丈が長くて重たそうな、ダブルブレストの黒のチェスターコートをさんざん探したのだった。2年前!これはいかん。お買いものにゆこう。お買いものにゆき、店員さんに素敵な接客を受け、品物を手渡してもらい、その重みを感じながらるんるんで帰ろう、そういうのをやろう。そういうことが必要だ。

 

 

 

服を滅多に買わないということは、服を買うのに自信がないということです。

勇気を出して指輪を買った話

そこで、事前準備として、はらだ有彩さんの『百女百様─街で見かけた女性たち』を読んだ。

この本はファッションの本ではない。街を歩く彼女たちが未来永劫、その人生を終える日まで、益体のないジャッジに直面しませんようにと勝手に祈るための本である。(紀伊国屋書店  内容紹介より)

著者が出会ったりすれ違ったりした女性たちのお話がいくつか紹介されている。彼女(表象)たちは特になんでもない格好をしていただけかもしれないけど、こんなふうに誰かの気持ちに素敵に作用したり、勇気になったりする、例えば今この私とか。骨格、パーソナルカラー、風水、身につけるものの形や色の参考になるジャッジや基準、考え方はたくさんあるけど、今回私は彼女たちのようになんでもないふうに好きなものを着よう、と思った。いいぞ、素晴らしい!

 

買いたいものはふたつあって、まずスニーカー、そしてジーパンである。スニーカーは直近で美術館と水族館でそれぞれ一日ウロウロしたら足が疲れてしまったので欲しかった。今はVEJAしか持っていない。とても素敵な靴で大好きだけど、クッション性があるとは言えない。

 

評判がよいので気になっていたHOKA ONE ONE(ホカオネオネ)を履きに行くことにした。原宿の単独店を訪ねると、広いとは言い難い店内でお客さんたちと店員さんたちが入れ替わり立ち替わり過ごしていて、ドアマンさんに扉を開けてもらった。入店をエスコートしていただくのなんて、大学生のときに好きな写真家エリオット・アーウィットの写真展『パリはいつもパリ』を鑑賞しに銀座シャネルのビルに行ったの以来だよ……。

軽音サークルの練習帰りだったから、ギターケースを背負ったまま行ったのを覚えている

ライフスタイルと書かれたコーナーのスニーカーを眺めていると、店員さんが話しかけてくれたので、「ちょっと相談したいんですが……」と宣言し、美術館や水族館など一日中歩いたり立ち止まったりし続けても疲れにくいものを探しているとお伝えした。初めてHOKAを検討している(ので選び方がわからない)ということも添えた。買いもの下手ヒューマンには下手なりのハックがあり、それは『適切なものを勧めてもらうための情報を全て渡し、わかりませんと素直に言って、店員さんの"こ、こいつ、勧め甲斐があるぜエ〜〜〜!!"や"この客……俺/僕/私がなんとかしなきゃ……!!"を引き出す』というものです。

店員さんは「美術館ですか。僕こんなナリですけど美大卒なんですよ」と笑って、BONDAI 8というモデルを勧めてくれた。私は足が小さくて普段22.5センチとか履いてるんだけど、HOKAは22センチから用意があるとのことでありがたかった。生憎22.5センチがなく、23センチを試させてもらった。立って歩いてびっくりした。ふかふかする!地面が遠い!楽しい! 「ライブの予定があるんですけど、これ(靴)なら余裕ですか」と聞いたら、「野外フェスなんかは防水モデルがいいと思いますが、室内なら余裕です。僕はこれ履いてディズニーランド終日余裕でした」と返ってきて、えーめっちゃいいじゃん!と思ってこれにした。色は、今のVEJAがオールホワイトなので黒を選んだ。退店時もドアマンさんが扉を開けてくれた。店員さんに、学歴のルーツにナリは関係ないですよ、素敵ですねと言えたらよかった。咄嗟に言えなくて後悔。

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友情出演:京都(かにのぬいぐるみの名前)

 

次はジーパン。お目当てはwestoveralls(ウエストオーバーオールズ)というブランド。数年前に紹介動画を観て以来、ずっと気になっていた。

westoverallsは単独店がなく、探すのが難しい。動画にある五本木のTFは取扱が豊富そうだけど、メンズのセレクトショップなので、レディースサイズを履いている私はお客さんになれない。

https://tf-shop.jp/

メンズサイズの人や、メンズの装いが好きな人は行ってみて!

新宿高島屋のデニムスタイルラボは、今期はインディゴカラーの取扱がなく残念。日本橋店に足を伸ばそうとしたけど、同じ条件の仕入だそうで、悲しいけれど手間が省けた。

川崎のRon Herman。全店25〜26インチしか取扱していないというナメた仕入をしており、無念。そのへんはお店の戦略だから、嫌味とかじゃなくて本当に別にいいんだけど、28インチを普段お召しのお客さまを素敵にして差し上げられない貧弱なサイズ展開で申し訳ございませんと店頭に看板を出しておいてほしい。半分冗談ですが。FREAK'S STOREはSOMETHINGフェアみたいなのをやっていて、ほかのブランドのものは見つけられなかった。

横浜のFREAK'S STOREも川崎と同様の状態で、SHIPSも見たけど無かった。万事休す。

 

 

 

 

そこで、大冒険をすることにした。人生初、個人経営のセレクトショップを訪ねよう。

雨模様だった空をすっかり青が占めていた。やらないよりはましだと日除けに雨傘を差し、最寄駅らしい京急線神奈川駅から歩いた。だいぶうねうねしながら辿り着き、

お店になかなか入れなかった。

こわすぎる。押し売りされて断りきれなかったらどうしよう。お目当てのものがなかったとして、何も買わずに退店など許されるのだろうか?思わずTwitter(現X)で『セレクトショップ  入りづらい』で検索をし、でも、ここまできたのだ。ブラウザで検索したら、『店の前まで来た時点でお前には資格がある。さっさと入れ』と書いてあり、外から店内の様子を伺い、ここまでで十数分経過、ええいままよと扉を開けた。

商品スペースと事務所みたいなところが地続きになっている。奥から年上のお姉さん(表象)な店員さんが顔を覗かせてくれた。「こんにちは」の挨拶は言えた。ジーパンはすぐに見つかって、サイズを見ていると話しかけてくれたので、これを探しに来たのだとお伝えして、そのまますぐ試着させてもらえた。代表的なストレートの型の27インチと28インチ両方を試した。お腹のところが楽なのは当然28インチだけど、27インチも一応履ける。膝下のシルエットが微妙〜に違う程度の差だったので、店員さんと「お姉さん的にはどっちです?」「う〜〜〜〜〜〜〜〜ん」とふたりして悩み、もう1回履き比べて、私の悪い癖が発動した。自分の中ではもう答えが出ているのに、正解を選んだと言ってほしくて、背中を押してほしさに、ほぼ決めているほうの商品に対して「これ変じゃないですよね?」とか「これにしようかな〜」とか言いながら店員さんをチラッチラッと見て、欲しい言葉を言ってくれとアピールしてしまうのだ。これは本当に私のよくないところだと思う。感情労働を強いている……と落ち込みながら、28インチにした。

お会計のとき、クレジットカード決済の暗証番号がうろ覚えなので失敗するかもとおどけると、もしそうなったらサインに切り替えましょう!と助け舟を出してくれて優しかった。目敏くHOKAのショッピングバッグにもふれてくれて、もうひとりいらした男性(表象)店員さんもユーザーだそうでちょっと盛り上がった。ジーパンを包んでくれながら、「お店の場所、すぐわかりましたか。どの駅からいらしたんですか」と聞かれたので答えたら、それだとうねうねしたでしょう、横浜駅からのほうが来やすいんですよと言い、帰り際はお店の外まで出てきて道を教えてくれた。傾いた陽の中その通りにてくてく歩いていくと、なるほどあっさりと駅に着いた。そのまま帰宅して即風呂、ごはん、爆睡。とても優しくしてくれて怖くなかったし、いいお買いもの体験ができて嬉しかったのでお店のお名前出しますけど、arable soilです。勇気だしてよかったです。本当にありがとうございました。

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801Sという型。バンダナは飾りじゃなくて、しつけ糸を解けば抜き取って使えるガチのやつらしい

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エストがゴムになっていて、服をインしやすく、色移りしにくい仕様。ジップフライ。サスペンダーループも標準装備

 

 

大冒険の内訳

あちこち巡っていっぱい歩いた。チェーン店(?)じゃないセレクトショップに行った。

 

よかったところ

ジーパン探しを最後まで諦めなかったところ。なんだかんだセレクトショップに入店できたところ。

 

よくなかったところ

セレクトショップ前で日和った挙句、店員さんに感情労働をさせたところ。めちゃくちゃ歩いて疲れたので、先にスニーカーを買い、日を改めてそれを履いてジーパン探しの大冒険をすべきだったところ。

 

 

 

また水族館に行った話

行きました。品川に。

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白はシルバー素早く泳いだ

 

ヤマメ先輩、アロワナ先輩、オイカワ先輩などがいて、おいおいぜんぶどうぶつの森*1で釣ったやつだぜ!と友達たちと大騒ぎした。どうぶつの森はすごい。

満潮時と干潮時の海の水位を擬似的に操作・再現できる水槽があって、潮溜まりに取り残されて息も絶え絶えな魚がいたので慌てて操作ボタンを押したんだけど、ぜんぜん水位が上がってこなくて、たぶん助けられなかったと思う。自然界ではこういうことが起こりまくっているんだろうな……。

ちなみにこの事件が起こる前にスタッフさんがやってきてスポイトで餌をビャーッと投入し、俄かに一帯でパーティーが始まって楽しかった。

 

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刺されるとたいそう痛いらしいクラゲ先輩

 

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イワシ先輩。初めてまじまじと見た。そんなに青くないんだね

 

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かわいい先輩。小さい頃はもっとかわいいらしい

 

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ハコフグ先輩

 

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ウミウシ先輩。きれいすぎる

 

アシカショーも観た。パフォーマンスをする前にいちいちトレーナーさんがアシカを見て、アシカがちょっと合図のような動きをしていて、たぶん指示に従う意思があるかとか、集中力とか、そういう状態を確認しているのだと思うけど、かなりよかった。一度だけ輪投げを外してしまったんだけど、わざわざトレーナーさんが近寄って拾って首にかけてやっていた。「リトライはしないけど、ミスはとりあえずリカバーして成功したことにして、やりきる」ことが双方に大事なんだろう。人生。

トンネル水槽では大きなウミガメ先輩とマンタ先輩とイヌザメ先輩たちがいて、ダイバーさんが食べ残しを回収しながら新たな餌を与えており、寄ってくるイヌザメ先輩を撫でていてよかった。寄ってこずに奥のほうでじっとしている先輩に優先的にあげていたところもよかった。

一緒に行ったいつメンのひとりが真珠取り出し体験をやった。取り出したものは預けて待てばアクセサリーに加工してくれるというので、待つ間に腹ごしらえをした。

お店はまぐま。こぢんまりとした居酒屋で、混んでいたので座敷に通してくれた。メニューを見たらお刺身と唐揚げとコロッケ、とか、お刺身と豚の生姜焼き、とか、選択肢のほとんどが最高の輝きを放っていて、うんうん唸ってやっと注文をした。お魚を見たあとはお魚を食べよう!

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特2定食〜まぐろ中落ちとタコの刺身、春巻きとコロッケ〜

全てがあまりにも美味しすぎて一瞬で完食し、膳を下げていただくとき言えそうな雰囲気だったので「超おいしかったです……」とお伝えした。綺麗に食べていただいて嬉しいです〜と返してくれた。美味しかったですとご馳走さまでしたは言えるとwin-winタイムが発生して心に効くね。

 

チケットを提示して再入場した。

真珠取り出し体験イベントのスペースは、イルカの水槽のエリアにある。しばらくイルカ先輩たちを眺めていた。シンプルに大きい。この体躯で知能が高いというのだから、人間が弄ばれて死んでしまうケースがあるのもよくわかる。しばらく見ていたら、イルカの尾は上下に動いていることに気がついた。ほかの魚類先輩たちの尾鰭は左右なのに。最初、魚類と哺乳類で異なっているのかと考えたけど、同じ哺乳類であるサメ先輩の尾は左右に動くタイプだし、行き詰まってしまった。飼育員さんに質問したかったけど会えずじまいだった*2。博物館や美術館なら学芸員さんがいるけど、水族館で生態について質問したいときは自力で調べる感じになるのかな?

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自分ゴマフアザラシ先輩よりチビなんすよ……の手(身長約155センチ)

 

友達が預けた真珠はネックレスになって帰ってきた!友達はさっそく着けて嬉しそうにしていて最高だった。よく似合ってるよ。

 

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最後のサメ水槽にて、ファンサで歯を見せてくれる先輩。そんな……いいんすか……!!

 

お土産屋さんで運命の出会い。妹へのお土産にしようかと思ったけど、あんまりかわいいので自分用にした。内藤デザイン研究所さん*3ありがとうございます。京都大作戦*4の日に出会ったので、きみの名前は京都大作戦、略して京都だよ。妹にはお菓子を買いました。

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袋覗いたら居るのかわいすぎる

 

移動して、来月にやるグループ展の打ち合わせ。ギャラリーの担当者さんとさくさくお話を進め、終わったあとはお疲れ会ののち解散。作品づくり、やろうね、私。はい。

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うれしくて何度も鞄覗いちゃう

 

あと今回も足が疲れちゃった。ほんとに買うぞ、タウンユースのスニーカー!

 

 

 

 

 

*1:家庭用ゲームソフトのタイトル。シリーズ化しており、たいへん人気がある。村やら島やらで自分なりの暮らしを楽しむゲーム。釣りをすることができ、釣ったお魚はゲーム内の水族館に寄贈して鑑賞することもできる

*2:後日ソウルメイトが調べてくれた。

*3:ネット通販もある。

*4:京都で開催される、夏の音楽フェス

翻訳できないわたしの言葉展に行った話

東京都現代美術館に行き、『翻訳できないわたしの言葉』展を鑑賞した。

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鑑賞というか、参加したという感じがする。

あまり調べずに行ったので、実際に足を踏み入れるまでは、「"適切な訳語が存在しない言葉"などを扱っているのかな」と思っていたけど、そうではなかった。自分のルーツにある言葉、それを学ぶ/学ばない/話す/話せない/話さないこと、意図的に学習して習得した言葉のこと、使う言葉の選択、話す代わりのこと、そういう展示だった。

入場時、使い捨て耳栓とリラックスボール(手持ち無沙汰のときにニギニギするやつ)のようなものの貸し出しの案内板があり、とてもいい取り組みだった。カームダウンスペースもあって、このへんはもっと色んな場所で定着すれば、外出先の選択肢が広がる人たちがいるだろうなと思う。美術館は、できるだけ多くの人にとって安全な場所であるべき。それは展示物を鑑賞することによって自分の中の何かが瓦解したり傷ついたりすることと両立できる。

 

ユニ・ホン・シャープさんの展示。フランス語の発音を教えてもらう映像作品と、沖縄の方言札を模したお菓子があって、母国語でない言葉を正しく発音するのを目指すことと、特定の国や地域に根差した言葉の使用が禁じられたことに対する抵抗、という、アンビバレントな事例を扱ったものだった。言葉は文化で、ルーツを示すものだから、できる限り『正しく』発音したり使ったりすることを目指すべきだと私は考えているけど、そのことと、特定の国や地域の言葉を保っていくことは両立させられる。世界中で幅を利かせている英語ひとつとっても、訛りのあるのを話す人はいくらでもいる。私はいま関東で暮らしているけれど、10代前半までは中部に住んでいたから、越してきてから方言や訛りを自然と直してきた経緯があって、でもそれって必要なかったかもな、と思った。国籍をわりとシステマチックというかカジュアルに考えておられて、何人(なにじん)か問われたら今は迷う、と書かれていたのが印象的だった。国籍は移ろうものだから、そりゃそういうこともあるか……。

マユンキキさんの展示。アイヌとしてのルーツを持つ方。韓国にルーツのある方、一緒に仕事をしている通訳士の方との対話をそれぞれ収めた映像作品、私物を集めてご自身でキャプションを付けられたお部屋空間があった。お部屋の入口前でパスポートへの署名が求められ、誰にも確認はされない。署名してから入ってもいいし、部屋自体をスルーすることもできた。私はパスポートを読み、書かれた姿勢を自分に確認し、署名して入っていった。アイデンティティ空間(の開示)というのは、本来これくらい怖くてセンシティブで安全を求められるものです。中にあった木彫りの熊たちは、撫でていいとのことだったので、おそるおそる撫でた。怪我のないようにつるりと加工された木の滑らかさと僅かな冷たさ、自分の持ちものを他者に開示してしかも撫でてOKなの、この空間にいる人への信頼がすごい。絶対に裏切らないようにしようと思った。

映像では、自分の第一言語になったかもしれない、自分がルーツを持つ言語を、そのように身につけることができなかった事実と背景、そしてそれをあとから第二言語以降として学ぶ/学ばないこと、話す言語を選択する/しないことについてのそれぞれの感覚や考えが語られていた。

この展示を見ていなかったら、ルーツを持つ言葉を学ぶことを「偉いね」って絶対言っていたのでショックだった。偉いねじゃねえんだよ。第一言語として引き受けたかった人にとっては、本来はする必要のないはずの努力と忍耐と傷つきを強いられているわけで、誰もがそれに耐えうるパワーを持っていてしかも継続できるわけではない。私にはたぶん、自分のルーツ(にまつわるアイデンティティ)を誰もが大事にすべきで、それを見つけに行ったり自分の中に取り込もうとすることはきっと避けられないしそうするべきなんだろう、という暴力的な思い込みがあったんだと思う。このうち一部は真実なのだとしても、そうしない/できない人は、じゃあ不勉強で不適切で不合格で薄情者で異質で間違った(正しくない、あるべき姿ではない)存在なのか、そんなわけないのに。そしてマユンキキさんも金サジさんも私にこのことを知らしめるためにそれぞれのルーツをもって生まれたわけではない。彼女たち*1にこのことについて公に話したり説明したりする義務はない(マイノリティは往々にしてマジョリティに「俺たち/私たちにわかるように説明しろ」と無邪気に真摯なつもりで説明を求められまくることがあり、飽きているし、うんざりしている)。マイノリティだけが払うコストが存在する。それを忘れるべきじゃない。このことは当たり前ではない。

そして私は「好きな俳優に英語話者が多いから、興味のあるカテゴリの最新情報の第一報がだいたい英語だから」的な理由で、語学交流アプリで英語話者とチャットをしていて、勝手に身につかないかな〜と適当に英語にふれているけど、これはサジさんの仰るところの「ええな!」であり、田村さんが仰るところの「(第一言語としてその言語が自然と身につくことと)あとから選択して学ぶことは全然違うじゃん」でもある。ルーツを持たずしがらみもなく他言語にふれることのできる特権。「悪いわけじゃないよ」、でもさあ……。

私は和人で、それはこの日本における圧倒的マジョリティであることを意味する。映画『チロンヌプカムイ イオマンテ*2』を観たときの、神聖な"異文化"を垣間見た文化的興奮と罪悪感とを同時に感じて戸惑ってちょっと落ち込んだときのことを思い出した。私は日本の先住民であるアイヌの言葉と文化を侵略してそのほとんどを滅ぼし、未だに遺骨の返還を完了させておらず*3、差別発言で有罪判決を受けても政府官僚の職に就き続ける*4人々と同じアイデンティティを持っている。音声アイヌ語が、音声日本語、日本手話と併せて日本語としてカウントされたのもめちゃくちゃ最近のことで*5(琉球語がここに含まれていないのグロすぎる)、和人が主体の現状では未だにこのレベルってこと。私個人にその責任はないし、私が和人を代表して何か言えるわけでもないし、そうするべきではないとも思うけど、アイヌにも沖縄にも同じことを二度と繰り返さない責任は事あるごとに感じている*6。こういう状況の私が他言語にふれることが「悪いわけじゃない」のはわかっている、罪悪感を感じる必要も(たぶん)ないことも。けれど他者の状況というのは本当にさまざまで、その選択を、和人・本土の人間・アジア人の見た目で日本在住・日本語話者・日本国籍・シスジェンダー女性である私が絶対にジャッジすべきじゃない、のは、改めて肝に銘じておくべきだと思う。これ以上誰からも何も奪うことのないようにしなければならない。それは私の責任。頑張っていこう。今後もハッシュタグ使うぞ!杉田水脈は国会議員にふさわしくない!

南雲麻衣さんの展示。すべて映像作品で、一緒に過ごして話す相手によって、南雲さんが音声日本語、日本手話、その両方をそれぞれ使い分けるようすが3種類の映像になっている。私は自分がクィア*7なので、ジェンダーにまつわる問題や言葉にふれる/ふれに行くことが多くて、ジェンダーフルイド*8のことは知っていたのに、言葉についてはどうなんだろうはと考えもしなかった。使う/話す言葉とアイデンティティは密接に結びついていて、互いに強く影響を及ぼし合うという点はマユンキキさんの展示とも共通だけれども、南雲さんのように全部に当事者でネイティブな話者である複数の言葉を渡っていくケースでは、どれに帰属するのか問われる感覚があるそうだ。そんなの全部自分の言葉だろ、なんてナンセンスな問いだ、と私なんかは思うわけだけど、そう単純なものでもないのだろう。とはいえ複数の言語の全部にアイデンティティがネイティブとして居るのってそんなに問題か?その中のどれかひとつを指で指し示せるようにしろとかいう(非)明示的圧力があるのおかしくない?第一言語第二言語以降、帰属(所属)という概念は、あくまでも個人の中にある、最初は空っぽな"言語"という名前の新規フォルダの中にどの言葉がどの順に投入されていくか(していくか)みたいな順番と割合と選択の複合的な問題であって、うーん、まだうまく言えないな……。でもとにかくどれかひとつを選べっていうのは違うと思う。言語を渡っていくのは自然なことだと思う。

新井英夫さんの展示。ほとんど唯一の、肉体を経由して言葉を解釈した展示。さまざまな理由で言葉を発しにくかったり表現しにくい人たち向けのワークショップが紹介されていた。さわったり聞いたりして鑑賞体験ができるものが多くあり、和紙のかけらを2枚もらって、うち1枚を以降観て回る間じゅうずっと揉んでいたら、ちゃんと柔らかくなって楽しかった。その場で即興で踊ってみると、その場所や感じたことをよく覚えていられる、という踊りの短い映像もあった。田中泯の『場踊り』みたいでかなりかっこよかった*9。患っておられるALSは筋肉に問題が出るだけであって、思考力とは関係がない*10。『翻訳』は言語→言語、というのが最初に受ける印象だけど、自分の思考/肉体→言語というのもまた翻訳といえるわけで、新井さんが今も考え続けて実際に表現し続けているこのアプローチは、今まさに自分の思考→言語の翻訳にトライし続けている私にはとても好ましく映った。

金仁淑さんの展示。滋賀県ブラジル人学校に通う子どもたちのビデオポートレートと、彼らの送迎など多岐にわたるサポートを担当されている方へのインタビューなどの映像作品。日本国内でありながら日本語以外の言語で生活のほぼ全てが問題なく行える地域があったり、いわゆる外国人学校の存在は知識として知ってはいたけれど、個人のエピソードにふれたことはなかったので、興味深く観た(でも彼らは私に興味深く観察されるために生まれたわけではない)。異なる言葉で暮らす隣人たち。生活は続く。

企画展の最後の空間では、たくさんの人が書いた、言葉にまつわる個人エピソードを交えた感想の付箋がたくさんあって、読むと、複数の言語にアイデンティティを持っている人や、私と同じように方言や訛りを直した経験がある人もいた。私たちは色んな人と一緒に暮らしていて、その人たちのルーツや第一言語や国籍やアイデンティティが見た目でわかるはずはなく、そのことは今後も念頭においておく必要がある。座ってアンケート用紙を書き、投函した。

 

これも観た。

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サエボーグさんの展示がインパクトありすぎてほかの記憶ほぼ飛んだ。カートゥーンアニメに出てきそうな巨大なセットはバルーンみたいなものでできていて、巨大な排泄物やそれに群がるハエなどがいて、奥の開けた空間の中央では、ラテックス製の着ぐるみを身につけた犬人間が四つん這いでゆっくりと動いていた。最初は、ギミックすごいな〜どうやってパフォーマンススペースの境界線を認識させているのかな、と思って観ていたら、どうやら本当に生身のパフォーマーが中に居るらしいと気がついてきて戦慄した。犬はところどころ体毛が抜けていて、怪我をしていて、しかも泣いている。私はいわゆるペットと暮らした経験がほとんどないんだけれど、野良猫たちに遊んでいただくことは今でもあるので、もの言わぬ愛玩動物たちのもの言わなさを勝手に都合よく解釈するのはよくありませんね……と気持ちを新たにしました。

あと、人をだめにするビーズクッションみたいなのに座って、日常の何気ない動作の映像を観る空間があって、私じゃない誰かが既に作った、その痕跡の残る凹みの中に腰を下ろしたとき、巨人の肩に乗るのではないけれど、先人にフリーライドしたな、入れ替わり立ち替わり過ぎていくモノの一部に組み込まれたな、という感覚があった。

後日、この企画展を一緒に観に行った友達たちとまた別の場所へ行く機会があって、この時のことを少し振り返ってみんなで話した。ソウルメイトは、特にマユンキキさんの映像作品は、自宅で観るのと何が違うのか、と美術館で展示することの意義や意味を考えたみたいで、私にその発想はなかったので面白かった。その意見を聞いた別の友達は、意義はあったのではないかというような主旨の意見を述べて、私も同意した。私たち人間は今のところそれぞれが選択した/せざるを得なかった言葉を用いてコミュニケーションをとる社会的生物だから、言葉というものに対しては必然的にほとんどの人が当事者になる。あの空間に偶然居合わせた全ての人に、それぞれのルーツがあり、言葉があり、それは本人の物語で、その途方もない前提を肌で感じたり、前述の「先人にフリーライド/組み込まれた」という感覚を持てたのは、あの場を多くの他者と共有したからだと思う。碌に顔も見ていない、名前も知らない、追い越したり先を歩かれたりすれ違ったりした人たち全員が当事者。当事者は私を含めてこんなにいて、傍観者ではいられなくて、当事者で、参加者。

 

常設展も楽しんだ。石岡瑛子展で観たときと変わらず、円周率みたいでこれが一番すき。円周率は0から9までの数字の登場頻度がほぼ同じなうえ、数字の並びは確かほぼ完全なランダムなので、ありとあらゆるものやことが円周率の中にはある。例えば私の生年月日『19911028』も円周率の中のどこかにいつかは必ず登場するし、仮に一人の人間のDNA情報を数字で表すことができたとして、その恐らく膨大な量(桁)の数字の並びと寸分違わない並びすら、いつか必ず登場する。円周率の中にはこの世の全てがあるんですよ、ロマンだと思いませんか。

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びっしりと並んだカウンターが、一つひとつ違う速度で0から9までの数字を表示しては一旦消え、またカウントを再開する。それがずっと繰り返されている

石岡瑛子展に行ったことにふれている過去記事。この時買った指輪は、今回も着けていった

 

鑑賞後は気力体力ともに消耗してしまい、へろへろで帰宅後即風呂、そして即爆睡だった。ファッションに全振りして革靴で行ったらめちゃくちゃ足が疲れてしまって反省。こういう時用のタウンユースのスニーカーを買うべきだなと思いました。HOKA ONE ONE、On、SALOMON、どれがいいだろう。おすすめあったら参考までに連絡ください。

 

食べたものたち

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鑑賞前に食べた牛肉フォーと生春巻き。お店はDiner Vang*11。どちらも信じられないくらい美味しかった。パクチー、もやし、レモンは一緒に別添えで提供されてありがたかった。パクチー苦手なのにベトナム料理は食べたいワガママヒューマンでごめん


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東京駅にてかなり久しぶりの味噌カツ。名古屋生まれの胃に染み渡りすぎる。やっぱこれだよ。私のアイデンティティの一部には、今でも名古屋のあの田舎の生家が根深く存在している

 

 

 

*1:プロナウンはshe/herでいいのかな?より適切な代名詞がありましたら直ちに修正します

*2:「プ」は正式には小文字

*3:「盗ったものは謝って返して」アイヌ民族が求める遺骨返還 「慰霊施設」に集めて移管じゃ浮かばれない:東京新聞 TOKYO Web

*4:自民党の杉田水脈氏、アイヌ関係者巡り「存在しない差別話す」 - 日本経済新聞

*5:http://www.yuki-enishi.com/yuki/yuki-151216-1.pdf

*6:ここで「常に」と言えないところに私の持つ特権性がある。私はこの問題を忘れて過ごすことができる

*7:ここでは、性的マイノリティの総称として使っています。私自身は、アセクシュアルとアロマンティックの両方のアイデンティティを今のところ持っています

*8:ジェンダー・フルイド | Magazine for LGBTQ+Ally - PRIDE JAPAN

*9:田中泯が語る、踊りへの想い。「間違いなく一瞬一瞬が違うときとして生きたい」|美術手帖

*10:全身のあらゆる筋肉に文字通り致命的な問題が生じてくるので、このことを軽視したり矮小化したいわけではない。思考力や認知能力は維持されるというのが、この難病のつらいところのひとつだと思う

*11:グルマン温故知新:清澄白河〈Diner Vàng〉ワインにぴったり、ハーブ満載ベトナム料理 | ブルータス| BRUTUS.jp

水族館に行った話、人生的に正解なクレープの話

2024年6月は祝日がなかった。こんなことが許されるのか?そんなわけないですよねえ、魚類先輩!ということで自主的に祝日を設け、水族館に行ってきた。

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川崎水族館のチケット売場

 

水族館たのし〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!

 

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挨拶をするように片手を上げてくれていたカメ先輩

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ゲームキューブどうぶつの森で散々釣ったアロワナ先輩。でかい

 

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すみっこで暮らすハイギョ先輩。でかい

 

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マジででかい先輩

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水槽に対してこれくらいでかい(?)

 

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かっこいい鳥類先輩

 

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ずっと縦だったのに頭だけ急に横になる、笑顔のかわいい先輩

 

休憩。館内のカフェでナマズフライカレーを食す。お味はふつうの白身魚のフライでたいへん美味しい。ルーも辛くない。レモネードは炭酸あり/なしが選べる。炭酸が苦手だけどレモネードは飲みたい私にはとても嬉しい仕様。

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ご馳走さまでした

 

散策を再開。

 

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ゴージャスな爬虫類先輩

 

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ちいさい先輩たち

 

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アイシャドウをのせてるみたいでかわいい先輩

 

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mamaroが整備されており、お子さま連れも多く、素晴らしい

 

ほかにもカピバラ先輩たち(でかい!)やトキ先輩がいた。トキ先輩は遠くから一羽だけ観測できて、ピンク色でとても綺麗だった。オオハシ先輩やアルマジロ先輩は見つけられず、残念。

毒ガエル先輩たちもたくさんいた。白いのとか、蛍光ブルーのとか、色覚に特性のない人間が見たらこれは毒があるだろうと思う色遣いなんだけど、毒ガエル先輩たちを捕食する鳥類先輩たちにも同じように見えている、ということなんだろうか。

メインの魚類先輩たちは、 30センチ以上あるピラニアとかが水槽をうろうろしていたり、ほかにもでかいのがたくさんいて興奮した。マジでそのへん歩いてる子どもよりでかい。クジラやシャチなどを見ていても思うんだけど、こんなに大きな生きものを内に抱え込んで好きにさせても全然平気な顔をしている川とか海とかいう空間、果てしがなさすぎて怖い。宇宙は最後のフロンティア*1とはよく言うけれども、海こそがそうなのではないかと私は思いますね。

 

堪能したあとは素早く帰路についたんだけど、ふとクレープを食べて帰ろうか迷ってお店の前まで行って、いやでもカロリーやばいしな……もう夕方だし……とかつまらないことを考えて結局やめてしまった。健康管理的には正解だったんだろうけど、じゃあ人生的にはどうだったんだろう?たぶん答えは出ている。人生的に正解なクレープを食べて生きていきたいね。

 

 

 

 

*1:スタートレック、リブート映画の続編をいつまでもお待ちしております

最近の話

千穐楽

スタッフとして所属している劇団の本公演が、無事に千穐楽を迎えた。

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久しぶりの下北沢、晴れ

お客さまたくさん来てくださって嬉しかった、ありがとうございました!大勢の方々にもご協力いただいて頭が上がらない。

下北沢はすっかり様相を変え、きれいになって出迎えてくれた。それでもあちこちに貼られた芝居のポスターに目をやる人たちや、劇場前にたむろしてそわついている人たち、中で忙しなくしている小屋付き*1さんたちが見えると、演劇というものがエンターテイメントとして選択肢にあたりまえにあることの豊かさに胸がいっぱいになる。いま通り過ぎたところ、そしてもう少し行った先にある、小さかったり大きかったりする劇場とかいう場所で、もしかしたら何人かには宝物にしてもらえるかもしれないしつまらなくて捨てられるかもしれない時間がずっと始まっているのは、間違いなく素敵なことだね。スクラップアンドビルド、劇場はどんな世界だって平気な顔でいくつもいつまでも抱えていてくれる。いつもありがとう。

ところで、千穐楽のあとはそのまま怒涛の精算業務に突入します。ほかの劇場もたくさん千穐楽なので、バラシ*2がバッティングしないよう小屋付きさんと相談のうえ速やかに作業していく舞台班のやりとりをBGMに、パソコンぽちぽち、紙幣ぺらぺら、硬貨かちゃかちゃ。ポンコツな計算の数々を色んな方のお力を借りてひとつずつ解決、なんとかなった!よかった〜!まあ自分とこの公演だから違算が出ても最悪ポケットマネーでどうにかすればよいです(よくない)。

ところでPart2、小劇場界隈にある素敵な慣習をひとつ紹介します!それは、『大入袋をシャカシャカ振って、中の5円玉に袋の端を破らせて取り出し、またご縁がありますようにと座組全員と交換する』というやつです。願い、験担ぎ、ちょっとした祈り。かわいいでしょう。うちは千穐楽後の打ち上げでやります*3。皆さんずっと健やかで、できたらまたうちの芝居に出てほしい。そしてお先に失礼して駅まで駆けていく、雨の夜、下北沢。エモすぎる。この街を舞台にしたなんか知らんけどモラトリアムにとらわれた洒落た若者たちの陰鬱で美しい映画がいっぱい作られる理由がわかる。ガザでの虐殺に反対して即時停戦を呼びかける人がいたので、速攻で署名をした。素敵な街下北沢、ばいばいまたね。

 

 

 

YouTubeでお芝居を観てみようのコーナー

演劇界で知らないやつはモグリな男つかこうへいの『熱海殺人事件』を2パターン観ました。池田成志のやつと、阿部寛のやつ。私は劇団スタッフやってるくせにお芝居を全然観ない不道徳で不勉強なヒューマンなので、つか作品は初見。立板に水のごとく発せられる異様な量と速さのセリフで、ストーリーがぜんぜんわからない。でも若い成志がタキシードに身を包んで最初から最後までずーーっと汗を顎から滴らせ続けているさまがめちゃくちゃエロかったから全部観た。阿部寛もかわいかった。

池田成志

阿部寛

続きまして、同じくつかこうへいの『飛竜伝'90  殺戮の秋』。噂に聞く「機動隊の山崎」が出てくる芝居。安保闘争に身を投じていく女子学生と、彼女を引き込んだ男、そして学生運動を制圧する側の、機動隊の男。全部終わったあとで、今じゃ政府高官にまでなった男が無理やり時間を作ったり、機動隊の山崎が来るならって言って当時敵対していた男たちすらやってくる、けれど当の山崎の精神は壊れている、男たちは熱くて痛くて輝いていたあの時代を山崎に語りかける。山崎の視線の先には、あの女子学生がいる。まるで戦争みたいだった。

 

『バナナの花は食べられる』でお馴染み範宙遊泳の、『ももたろうのつづき』。子ども向けプログラムだけど、大人が観ても楽しい。エンディングがNG集になっていて思わず満面の笑み。楽しい演劇は楽しく作られていてほしいね。まあなかなかそういうわけにもいきませんが……。

 

そしてやしゃごの『きゃんと、すたんどみー、なう。』。所謂"きょうだい児"の話なので、つらくなってしまう人は閲覧注意でお願いします。誰も自由になれない、どこにも行けない誰かたち、何も解決しない、誰も答えてくれない、そういう話。でも男たちは恐竜のおもちゃを出しっぱなしにして、茶請けも出さず、ほとんど片付けていなくてムカついた。結局ケア労働は女性が人生を捧げながら担当して、そのために産んだのかと問うても答えは明確に返っては来ないばかりか、好きなように生きろといいこと言ってるふうに今更突き放されて、障害者同士の切実な恋愛は「いいな、ふたり。純粋で」と定型発達の健常者にエモいストーリーとして消費され、家庭の当事者だったらどうすると問われた男性は「死にたくなりますかね」と答える*4。それでも死ぬわけにはいかない、それは選べない、そうやって育てられて生きてきた当事者たちを置き去りにして。そして本当に何も解決しない。苦い後味の、いい芝居だった。私はこれを芝居として安全に消費できるくらいの距離を取れるけど、そうじゃない人たちもいるに違いない。

 

 

 

久しぶりの歌舞伎

当日券チャレンジ大成功により、4年ぶりに歌舞伎を観た。演目は封印切で、鴈治郎さんたち上方(かみがた)の役者さんたちが務めてくれる。解説の宗之助さんのきゅるきゅるフェイスと確かな進行、前後半で寒暖差激しすぎて風邪ひく状況での鴈治郎さんの安定した流石の芝居、一途でかわいくてジャラジャラしても全然ムカつかない最高の高麗蔵さん、鴈成さんの素敵なおえん、今すぐ殴らせろ亀鶴さんの八右衛門、ピリリとした素晴らしいスパイスの寿治郎さん、かっこよすぎて椅子から転げ落ちた彦三郎さん、場の雰囲気を大いに左右する重要ポジション仲居さんたち、全員最高!ありがとうございました!

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その他

CARAT*5になった母が、推し・ホシのお誕生日翌日に初めてケーキを買ってきた。今まで私がましゃ(最推し・福山雅治の公式愛称)のお誕生日とデビュー記念日にケーキを振る舞い続けてきた成果です。おめでたい日にはどんどんケーキを食べよう。世界中のケーキ屋さんいつもありがとう。

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小林賢太郎の『うるう』のYouTube無料配信が終了したので買った。ヨイチ、お誕生日おめでとう。私のところに来たからには二度とひとりにしないからな、覚悟しておけよ、この世界でいちばんさびしがりやが。こっちにこい。

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ハッピープライド!もういっかい読んだ。

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アラバキロックフェスの自分用最強プレイリストをつくった。いつも同じ曲を繰り返し聴いて楽しむタイプだから、新しい曲に出会うには、フェスの全ミュージシャンの全セトリが出揃ったら出演日と出演時間昇順で全部プレイリストにぶち込んでから好みじゃないのだけ削る、のやり方が早い。PEDROの『余生』とか、きのこ帝国の『春と修羅』とか、あ〜生きなきゃな〜だるいけどしょうがないな〜〜みたいな曲が好きだ。生きなきゃな、だるいけどしょうがないな。

 

 

 

 

*1:劇場スタッフさんのこと。「小屋」は劇場という意味です

*2:全公演終了後、大道具、小道具、楽屋の私物などを全て運び出し、現状復帰のうえ完全退居すること

*3:わざわざ「千穐楽後の打ち上げ」と書くのは、うちは初日やら中日(なかび。公演の行程の折り返し地点にあたる日のこと)やら何かしら理由をつけていっぱい打ち上げをやるからです

*4:でも挙げたふたつのセリフが気軽に発せられたとは思わない。彼らには彼らの地獄がある。とはいえそのセリフで当事者たちの地獄が救われるわけではない

*5:からっと。韓国のボーイズアイドルグループSEVENTEENのファンのこと

祖母に会う、そして小林賢太郎の話

ゴールデンウィークを利用して、最近施設に入居した祖母に家族で面会に行った。湯川先生*1にも来てもらった。

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「"匂わせ"をやる!」とか言って両側から出てきた指ハート

自販機でシンカンセンスゴイカタイアイスが売られていて、ちょうど最推し・福山雅治(公式愛称「ましゃ」)のツアーの静岡公演の最中だったので、感謝の気持ちを込めて静岡産イチゴを使用したものを購入。おいしすぎる。ましゃ、今年の夏はさいたまスーパーアリーナと武道館で逢おうな。

 

 

その施設では、ドタキャンでガッカリさせたくないからという理由で、面会予定を入居者に伝えないそうで、訪問はサプライズになった。感染症対策で面会人数に制限があるため、ひとまず私と妹が会う手続きをしていたら、同じ時間に面会予約をしていたらしい叔母と従兄にバッタリ会った。こうして施設側のダブルブッキングにより大人数になってしまった我々は、祖母が乗る車椅子を押して町に繰り出し、ドラッグストアとスーパーで祖母の欲しがるまま全部カゴに入れて精算し、そのへんの道端でジュースを飲みながら語らった。おそらくここ数ヶ月でいちばん最高なお金の使い方。

祖母は90歳を超えているが、かなり久しぶりに会う私のことも覚えていてくれて嬉しかった。施設に入った途端に弱ってしまうか、生き生きとしだすか、祖母はどちらだろうと心配していたけど、今のところはかなりいい感じだ。ただ、ボケていない故にごまかしが効かないため、母方の祖父がもう何年も前に亡くなっているのを隠していることについて、親族中で口裏を合わせて発言に気をつけないといけない。余命宣告ではないけど映画「フェアウェル」を思い出す。やさしい(はずだとこちら側は思っている)嘘。施設へ送っていって、また来るねと握手をして別れた。

 

帰りに父のところに寄って、一緒に墓参りをした。相変わらず注ぎ口の細いコーヒー用の洒落たやかんやボタニカルのシャンプーとコンディショナー、ギターだかベースだかの謎のネックが1本、それなりに生活しているようだった。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。でも連れていってもらった焼き鳥屋さんは美味しかった。こころ、初めて食べた。気に入った。墓参りでは、色々あって内心軽蔑している叔母が私の履くVEJAのスニーカーに言及し、欲しいんだよねと言うので勧めておいた。軽蔑しながら、許さないまま、関わり続けることができる。これが大人になるってこと。

前回の帰省

VEJAスニーカー新調ストーリー

 

 

最近、長い動画の視聴に耐えられるパワーが溜まってきたなと感じたので、そういえばYouTubeで観られるんだったよなと思い出して、小林賢太郎という人の芝居を観てみた。

こんなに私に都合のいい男がいるのかとびっくりした。

ビジュアル、声、芝居、良すぎるだろ。胡散臭いのに抗えない。信じられない思いで公式アップロードされている演劇作品とソロパフォーマンスPotsunenシリーズを全部観て、片桐仁くんと一緒にお笑い芸人をやっていた頃のコントを100本全部観た。特にPotsunen1作目『ポツネン』の『先生の電話』『悪魔のキャベツら』が気に入って、冗談抜きでほぼ暗唱できそうなくらい繰り返し観た。『ノケモノノケモノ』は音尾くんが主人公のいけすかないサラリーマン役を務めていてかなりよかった。音尾くんは、私がTEAM NACSメンバーで唯一ナマで演技を観たことがある*2役者さんなので、これはもちろん贔屓です。

 

桜の森の満開の下みたいな男だなと思った。あまりにも妖しくて美しくて、ずっとそばにいて眺めていたいと思うのに、実際そうしたならだんだん人生が狂っていってしまうような、足元に死体が置かれているような男。絶対に近づかないほうがいい。パフォーマー現役時代に出会っていなくて本当によかった。

彼の作品を観ていくつか思ったことがあって、それは彼の根底にはさみしさみたいなものがあって、それを作品の核にすることを躊躇わない(ように見える)んだな、もしかしたらそうやってセルフケアしてるのかな、ということと、もうひとつは、彼はたぶんボーイズクラブの住人なんだろうな、ということだった。

『ポツネン』の『先生の電話』、『振り子とチーズケーキ』、『THE SPOT』の『タングラムの壁』とかに、うっすらとした女性蔑視というか、女体好きの女嫌いというか、ホモソーシャル的なノリ、ないですか?ミソジニーであることを主題に置いたり、そのあり方が意味を持つのでない限り、男性キャラクターに女性のことを「女」と呼ばせる必要、あるか?ないだろ。"男子"という属性をいつまでも可愛がって、周りに許しを求めて甘えていなければ、男子自由形なんていう発想は出てこないだろ。未だにそこに住んでるんだろうな〜っていう感想。女性ファンも多いだろうに、残念だ。とはいえDVDはいくつか買った。そのうちのひとつには、前の持ち主が参加したのであろう、小林賢太郎出演のとあるイベントのチケットが挟まれていて、どんな思いで手放したのだろうとしばらく思いを馳せた。あとブックレットの巻末メッセージに「劇場でお待ちしております」と書いてあって、もう二度と会えないだろうがよ、バカが、とひとりで悪態をついた。

 

 

YouTubeでもっとお芝居を観てみようのコーナー!こないだは惑星ピスタチオのお芝居を3本観た。若き日の佐々木蔵之介が所属していた、関西の劇団だ。『破壊ランナー』面白かった!人間の走る速さが音速を超えた遥か未来で、ソニックランナーというプロのランナーたちがスポンサー企業の陰謀に巻き込まれていく話。実況アナウンサー役の方の滑舌の問題なのか音響の問題なのか、最初のほうはよく聞き取れなくて挫折しかけたけど、諦めなくてよかった。走っている間はずっとスピードスケートみたいな、膝と腰を曲げた前傾姿勢で、あの状態で手足をゆっくり動かし続けながら発声して芝居やるのすごすぎる。キャデラックかわいい。カルリシアかっこいい。たった9人で1人何役もやって、あそこまで命を燃やされると、もはや演技の技巧とかじゃないところで感動してしまう。敵組織の技術者役の佐々木蔵之介が、"中央防衛局"を「中央……………郵便局………!?」と永遠に言い間違え続けて、相手の(たぶん)先輩役者にノリツッコミギャグパートを永遠に強要していたところもよかった。『白血球ライダー』は敵将軍の悲哀が良すぎ。佐々木蔵之介の関西弁かわいい。私も主人公に「でっかい酸素の花を摘んでこよう」って言われたい。

『破壊ランナー』の映像は95年公演。私が4歳の頃に、板の上で走って、叫んで、汗だくで芝居をして、お客さんたちと一緒にここではないどこかで自分じゃない誰かを生きたひとたちがいる。この事実に途方に暮れてしまう。これって素晴らしいことだよ。

破壊ランナー

 

 

 

 

 

*1:最推し・福山雅治がドラマで演じたキャラクター

*2:エターナルチカマツ

骨董市と信仰の話

我が家では、今年はもっとお出かけしようということになっていた。「ゆこう」「ゆこう」そういうことになった。

 

手始めに日暮里の骨董市に行き、たくさんのお店を冷やかした。ああいう場所には初めて行ったのだけど、とても楽しかった!レトロなおもちゃや雑貨、それから茶器やカトラリーなどのテーブルウェアが綺麗に並べられて、冬の陽を浴びて柔らかく光っていた。アクセサリーも多かったので、でかくてゴツくて強い指輪があったら欲しかったが、ことごとくサイズが合わず、私はご縁がなかった。妹はたくさんのモノの中からすぐに気にいるものを見出して購入していた。銀のネックレス。隣にいたおばさまに「いいの見つけたね」と話しかけられており、いい空気だなと思った。好きなの見つかってよかったね。

ああいう、モノがたくさんあるところから好きなものを見つけるのには、日頃から「自分は何が好きなのか」「自分が好きだと感じるポイントは何か」を把握しておく必要があるんだろう。あるいは、買いもの自体がそのことを教えてくれるのかもしれない。妹はたぶんそれが得意だ。私はどうだろうか?

 

お昼のお店を探しながらうろうろしていたら佃煮屋さんがあり、母が惹かれて早速買っていた。あさりのと、昆布の。好きなのあってよかったね。

お昼はなんだかオシャレな感じのお店でサンドイッチセットを食べた。注文したBLTサンドは最初からカットされていてありがたく、あたたかいパンにバターがよく塗ってあってとても美味しかった。コーヒーはアメリカンと迷ったけどブレンドにしてみたところ、酸味が少なくて飲みやすくてこれも美味しかった。お会計のとき、「行ってらっしゃい」と言ってもらった。街歩きをする人が多いからだろうけど、その日の私たちも漏れなくそうだったから嬉しかった。行ってきます。

 

 

 

母が行きたいというので、「東京ジャーミイ」に行った。イスラム教の礼拝堂や多目的ホールがあり、ムスリム文化圏の人たちの集会所みたいな感じになっている施設である。

予約不要で施設内を見学できるというので、ロビーでツアーが始まるのを待った。能登の募金箱と、パレスチナ支援の募金箱があったので、速攻でそれぞれにお金を投入した。母は興味がなさそうだったが、私と妹が迷わず募金したので、つられて幾らか募金してくれた。ありがとう。

ツアーでは多目的ホール売店、外階段を通って外観を見て、それから最後に礼拝堂でお祈りを見学させてもらった。ホールの壁にはアラビア文字でできたマークのようなものが大きく書かれていた。イスラム教では偶像崇拝が禁じられているので、絵などの代わりに文字を装飾にするのだそうだ。私には記号のようにしか見えないあのマークも、誰かにはきっと「読める……読めるぞ!!」状態(出典:映画「天空の城ラピュタ」)なんだろう。文化(言葉は文化に内包されている)がわかれば、もっと世界中の色んなものが意味を持って飛び込んでくるんだろうな。

礼拝堂は土足厳禁なので、入り口で靴を脱いだ。入ってすぐに女性はスカーフを手渡される。頭髪と肌を覆うのだ。巻き方も教えてくれる。床に座って、訪れた人々がお祈りをするのを見守る。あとは流れ解散。

中は白と青を基調とした広い空間で、特に高い天井がどこまでも続いていくようだった。質疑応答があり、「女性はいつでもどこでも肌を覆わなくてはならないのか」という質問への答えが、「地域によるが、家では着けないことが多い。自分の夫と、夫と結婚していることにより自分と結婚できない血縁者男性の前では着けない」というようなものだった。問答のあいだもお祈りに来る人は途切れない。2階部分のバルコニーには女性たちがいた。そういえば私たちが座っている1階にお祈りに来るのは男性だけだ。男女で祈る場を分けなければならないのだろう。これはMCUドラマ「ミズ・マーベル」でも観ました。

うーん差別的……と思いながらお祈りを見続ける。かなりカジュアルな格好の若者も滑らかな動作でお祈りを捧げては帰っていく。そのうちのひとりが、年配の男性からハンドマイクを手渡され、祈りの言葉を捧げ始めた。その言葉には節がついていて、まるで歌のようだ。全く戸惑う様子がなかったその青年の言葉に合わせて、その場にいた男性たちも、バルコニーの女性たちも、一斉に祈り出した。

これが「信仰」か、と思った。ふだん法事で読経を聞いてもこんな気分になったことはないのに、この時は水を浴びせられたようだった。いきなりお祈りの言葉を歌えるほど、長い作法の動作に迷うことがないほど、生活の一部であり規範であり道徳であるものが、この人たちにはある。私にはない。それが「違い」で「文化」で「信仰」。私たちは今「信仰」を見ているのだと思った。

お祈りを一通り聞かせてもらったあと、痺れる足を叱咤してなんとか帰宅した。ムスリム文化圏ではこれからラマダンだな……とぼんやり思いながら、文化を「消費」してる気がする……とも思い、ちょっと落ち込んだ。visitorとして、異なる文化圏の、しかも宗教の空間にお邪魔させてもらったけど、振る舞いに問題はなかっただろうか?事前に勉強すべきことがあったのでは?読経を何とも思わないのに今回ムスリム文化の祈りに感じ入ったのは、異文化をオリエンタリズムのように雑に消費してしまっているからでは?とか色々考えてしまって、我ながら面倒な性格だ。色んなものを盗用せず消費せずに向き合う方法が知りたい。そもそもそんなことは可能なのか?

 

超好きな講演音源。長いけど美しいから是非聴いてみてください