私は本当に服を買わない。調べたところ、バンドTシャツ(これはいーっぱい買っちゃう!)、部屋着や仕事服、下着、靴下などを除けば、最後にお洋服を買ったのはなんと2022年11月、映画『ベルリン 天使の詩』の天使さまたちみたいな、丈が長くて重たそうな、ダブルブレストの黒のチェスターコートをさんざん探したのだった。2年前!これはいかん。お買いものにゆこう。お買いものにゆき、店員さんに素敵な接客を受け、品物を手渡してもらい、その重みを感じながらるんるんで帰ろう、そういうのをやろう。そういうことが必要だ。
服を滅多に買わないということは、服を買うのに自信がないということです。
勇気を出して指輪を買った話
そこで、事前準備として、はらだ有彩さんの『百女百様─街で見かけた女性たち』を読んだ。
この本はファッションの本ではない。街を歩く彼女たちが未来永劫、その人生を終える日まで、益体のないジャッジに直面しませんようにと勝手に祈るための本である。(紀伊国屋書店 内容紹介より)
著者が出会ったりすれ違ったりした女性たちのお話がいくつか紹介されている。彼女(表象)たちは特になんでもない格好をしていただけかもしれないけど、こんなふうに誰かの気持ちに素敵に作用したり、勇気になったりする、例えば今この私とか。骨格、パーソナルカラー、風水、身につけるものの形や色の参考になるジャッジや基準、考え方はたくさんあるけど、今回私は彼女たちのようになんでもないふうに好きなものを着よう、と思った。いいぞ、素晴らしい!
買いたいものはふたつあって、まずスニーカー、そしてジーパンである。スニーカーは直近で美術館と水族館でそれぞれ一日ウロウロしたら足が疲れてしまったので欲しかった。今はVEJAしか持っていない。とても素敵な靴で大好きだけど、クッション性があるとは言えない。
評判がよいので気になっていたHOKA ONE ONE(ホカオネオネ)を履きに行くことにした。原宿の単独店を訪ねると、広いとは言い難い店内でお客さんたちと店員さんたちが入れ替わり立ち替わり過ごしていて、ドアマンさんに扉を開けてもらった。入店をエスコートしていただくのなんて、大学生のときに好きな写真家エリオット・アーウィットの写真展『パリはいつもパリ』を鑑賞しに銀座シャネルのビルに行ったの以来だよ……。
軽音サークルの練習帰りだったから、ギターケースを背負ったまま行ったのを覚えている
ライフスタイルと書かれたコーナーのスニーカーを眺めていると、店員さんが話しかけてくれたので、「ちょっと相談したいんですが……」と宣言し、美術館や水族館など一日中歩いたり立ち止まったりし続けても疲れにくいものを探しているとお伝えした。初めてHOKAを検討している(ので選び方がわからない)ということも添えた。買いもの下手ヒューマンには下手なりのハックがあり、それは『適切なものを勧めてもらうための情報を全て渡し、わかりませんと素直に言って、店員さんの"こ、こいつ、勧め甲斐があるぜエ〜〜〜!!"や"この客……俺/僕/私がなんとかしなきゃ……!!"を引き出す』というものです。
店員さんは「美術館ですか。僕こんなナリですけど美大卒なんですよ」と笑って、BONDAI 8というモデルを勧めてくれた。私は足が小さくて普段22.5センチとか履いてるんだけど、HOKAは22センチから用意があるとのことでありがたかった。生憎22.5センチがなく、23センチを試させてもらった。立って歩いてびっくりした。ふかふかする!地面が遠い!楽しい! 「ライブの予定があるんですけど、これ(靴)なら余裕ですか」と聞いたら、「野外フェスなんかは防水モデルがいいと思いますが、室内なら余裕です。僕はこれ履いてディズニーランド終日余裕でした」と返ってきて、えーめっちゃいいじゃん!と思ってこれにした。色は、今のVEJAがオールホワイトなので黒を選んだ。退店時もドアマンさんが扉を開けてくれた。店員さんに、学歴のルーツにナリは関係ないですよ、素敵ですねと言えたらよかった。咄嗟に言えなくて後悔。
友情出演:京都(かにのぬいぐるみの名前)
次はジーパン。お目当てはwestoveralls(ウエストオーバーオールズ)というブランド。数年前に紹介動画を観て以来、ずっと気になっていた。
westoverallsは単独店がなく、探すのが難しい。動画にある五本木のTFは取扱が豊富そうだけど、メンズのセレクトショップなので、レディースサイズを履いている私はお客さんになれない。
メンズサイズの人や、メンズの装いが好きな人は行ってみて!
新宿高島屋のデニムスタイルラボは、今期はインディゴカラーの取扱がなく残念。日本橋店に足を伸ばそうとしたけど、同じ条件の仕入だそうで、悲しいけれど手間が省けた。
川崎のRon Herman。全店25〜26インチしか取扱していないというナメた仕入をしており、無念。そのへんはお店の戦略だから、嫌味とかじゃなくて本当に別にいいんだけど、28インチを普段お召しのお客さまを素敵にして差し上げられない貧弱なサイズ展開で申し訳ございませんと店頭に看板を出しておいてほしい。半分冗談ですが。FREAK'S STOREはSOMETHINGフェアみたいなのをやっていて、ほかのブランドのものは見つけられなかった。
横浜のFREAK'S STOREも川崎と同様の状態で、SHIPSも見たけど無かった。万事休す。
そこで、大冒険をすることにした。人生初、個人経営のセレクトショップを訪ねよう。
雨模様だった空をすっかり青が占めていた。やらないよりはましだと日除けに雨傘を差し、最寄駅らしい京急線の神奈川駅から歩いた。だいぶうねうねしながら辿り着き、
お店になかなか入れなかった。
こわすぎる。押し売りされて断りきれなかったらどうしよう。お目当てのものがなかったとして、何も買わずに退店など許されるのだろうか?思わずTwitter(現X)で『セレクトショップ 入りづらい』で検索をし、でも、ここまできたのだ。ブラウザで検索したら、『店の前まで来た時点でお前には資格がある。さっさと入れ』と書いてあり、外から店内の様子を伺い、ここまでで十数分経過、ええいままよと扉を開けた。
商品スペースと事務所みたいなところが地続きになっている。奥から年上のお姉さん(表象)な店員さんが顔を覗かせてくれた。「こんにちは」の挨拶は言えた。ジーパンはすぐに見つかって、サイズを見ていると話しかけてくれたので、これを探しに来たのだとお伝えして、そのまますぐ試着させてもらえた。代表的なストレートの型の27インチと28インチ両方を試した。お腹のところが楽なのは当然28インチだけど、27インチも一応履ける。膝下のシルエットが微妙〜に違う程度の差だったので、店員さんと「お姉さん的にはどっちです?」「う〜〜〜〜〜〜〜〜ん」とふたりして悩み、もう1回履き比べて、私の悪い癖が発動した。自分の中ではもう答えが出ているのに、正解を選んだと言ってほしくて、背中を押してほしさに、ほぼ決めているほうの商品に対して「これ変じゃないですよね?」とか「これにしようかな〜」とか言いながら店員さんをチラッチラッと見て、欲しい言葉を言ってくれとアピールしてしまうのだ。これは本当に私のよくないところだと思う。感情労働を強いている……と落ち込みながら、28インチにした。
お会計のとき、クレジットカード決済の暗証番号がうろ覚えなので失敗するかもとおどけると、もしそうなったらサインに切り替えましょう!と助け舟を出してくれて優しかった。目敏くHOKAのショッピングバッグにもふれてくれて、もうひとりいらした男性(表象)店員さんもユーザーだそうでちょっと盛り上がった。ジーパンを包んでくれながら、「お店の場所、すぐわかりましたか。どの駅からいらしたんですか」と聞かれたので答えたら、それだとうねうねしたでしょう、横浜駅からのほうが来やすいんですよと言い、帰り際はお店の外まで出てきて道を教えてくれた。傾いた陽の中その通りにてくてく歩いていくと、なるほどあっさりと駅に着いた。そのまま帰宅して即風呂、ごはん、爆睡。とても優しくしてくれて怖くなかったし、いいお買いもの体験ができて嬉しかったのでお店のお名前出しますけど、arable soilです。勇気だしてよかったです。本当にありがとうございました。
801Sという型。バンダナは飾りじゃなくて、しつけ糸を解けば抜き取って使えるガチのやつらしい
ウエストがゴムになっていて、服をインしやすく、色移りしにくい仕様。ジップフライ。サスペンダーループも標準装備
大冒険の内訳
あちこち巡っていっぱい歩いた。チェーン店(?)じゃないセレクトショップに行った。
よかったところ
ジーパン探しを最後まで諦めなかったところ。なんだかんだセレクトショップに入店できたところ。
よくなかったところ
セレクトショップ前で日和った挙句、店員さんに感情労働をさせたところ。めちゃくちゃ歩いて疲れたので、先にスニーカーを買い、日を改めてそれを履いてジーパン探しの大冒険をすべきだったところ。