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リタ・カニスカがクィアだったらいいのにという話

リタ・カニスカという名前のキャラクターがいる。2023年11月現在放送中の、スーパー戦隊シリーズ最新作、王様戦隊キングオージャーの登場人物である。

あらすじはこうだ。

宇宙の片隅にある、私たちが住む地球とよく似た星、チキュー。そこは5つの国で構成されており、それぞれ王がいる。王たちは、古くから伝わる予言『バグナラク(注:かつて人類と戦って敗れ、地底に追いやられた種族)が2000年の時を経て蘇り、人類を滅亡させる』に備えて、共にこの脅威に対抗すべく同盟を結ぼうとしていた。しかしバグナラク復活のほうが一足早く、はじまりの国シュゴッダムが襲われる。

シュゴッダム城下の児童養護院で暮らす青年ギラは、大混乱の中、国王ラクレス・ハスティーに助けを求める。が、ラクレスにはある思惑があり、破壊されていく街を眼前にしながらも一向に手を打たない。ギラは失望と怒りに駆られ、王たちだけが持つことを許される剣オージャカリバーを奪い、ラクレスに切先を向ける。そしてクワガタオージャーに変身し、敵を倒すことに成功する。その後、ラクレスへの反逆罪で追われるギラだったが、邪悪の王としてラクレスから王座を奪うことを決意する。

このように、キングオージャーはスラムのガキから王になれ*1的な "王道" の物語なのだが、同時にものすごく "政治" をやっているところが面白い。どのくらいやっているかというと、

「五王国のひとつ、農業の国トウフの王殿様カグラギ・ディボウスキ実妹スズメは、ラクレスの婚約者候補としてシュゴッダムのコーカサスカブト城に住んでおり、実質人質である。そのため、カグラギはラクレスの要望通りに政治的暗躍を行うことがある」

「人間とバグナラクの共存を望む、2つの種族のミックスである長命の語り部にして狭間の王ジェラミー・ブラシエリは、過去に予言や物語を執筆したが、それが現在まで伝わり続けた結果、それこそが長年にわたる人類からバグナラクへの根拠なき恐怖、憎悪、差別の温床に意図せずなってしまっていた」

という、現実世界に直結しまくっていて大人が大ダメージを食らう設定があるくらいやっている。小さい人たちを全く子ども扱いしないこの「国」「国同士」というものの容赦ない描写が、キングオージャーの魅力のひとつだ。

 

ところで、リタは五王国のひとつ、北の国ゴッカンを治める王であり、パピヨンオージャーに変身*2して戦う。ゴッカンは年中雪と氷に覆われていて、国を越えて重犯罪者を裁く国際最高裁判所と収監設備があり、リタは裁判長を兼任している。このことから、ゴッカンは絶対中立の立場を貫いており、他国に対して自国の不利益・利益となるはたらきかけを行わない、なかなか難しい国である。そんな不動の王リタの詳細設定は下記の通りである。

  • 15年前に起きたチキュー規模の大災害「神の怒り」がきっかけで、幼くして王にならざるを得なかった過去があり、「慎重で臆病、だからこそ大事なところは間違えない」という前王の評価のもと、重責を負い続けている
  • 唯一の癒しは、白い長毛に覆われたイエティのようなマスコットキャラクター・もっふん*3を愛でること。自室はグッズであふれ、巨大ぬいぐるみに自分でアテレコして自分を励ましている(「(アテレコ)リったんがんばれ〜」「うん、リタがんばる」など)
  • 左目は黒、右目はアイスブルーのオッドアイ。右目は常に前髪で隠している
  • 基本的に寡黙。絶対中立を厳守する意図もあり他者と積極的にコミュニケーションを取ろうとしないが、人間嫌いというわけではなく、他者には敬意を持って接する。が、低い声や淡々とした話し方もあり、融通がきかない冷たい人物と見られることが多い
  • 口元を覆う高い襟、革手袋など、肌の露出がほぼ無い
  • オージャカリバーは背中に真っ直ぐ縦に背負うスタイル
  • ストレスMAXの時(「ヴァッ!!!」)や気合いを入れる時だけ、突然大声で叫ぶ
  • にらめっこ最強

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え??????魅力的すぎん????????夢???????私の性癖透視しました??????????

そんなわけで、すぐにリタが好きになった。そして観ていくうちに、リタはクィアなのではないかと思うようになった。

 

スーツの話をする。スーパー戦隊では、女性キャラクターが変身して戦う場合、変身後のスーツにはスカート状のデザインが施されるのが通例である。

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2020年放送「魔進戦隊キラメイジャー」のキラメイピンク。グリーンも女性キャラクターで、同様のデザインが採用されていた。名誉のために言っておくと、キラメイジャーは「人はそれぞれ自分のキラメキを大切にすべき」というメッセージのもと、周りからどう見えていようと自分の大切なものを選ぶことを描いており、性別や性格に対する他者からの押しつけやまなざしを好意的にとらえたり、またそれを内面化してしまうような描写はなかった。加えて、以前放送の仮面ライダーエグゼイドでは男性キャラクターたちにのみあてがわれていた「優秀な医者」という属性を女性であるピンクが担っている点は、前進と言える。でもハーフパンツはどうなのとは思う。グリーンは陸上選手という設定だったので、彼女の衣装がハーフパンツだったのはむしろ良かったと思うのだが、そこに合わせる必要はなかったのでは。いやでも好きなデザインのユニフォームを着ているだけなのかもしれない。わからん。

しかしキングオージャーは全員等しくスカートなしのスタイルだ。

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リタの衣装マジでいいよね。防寒の観点から必然性のあるデザインで説得力があり、キャラクター性にも合っている

いわゆる「女性」然とした見た目や振る舞いをするキャラクター、芸術と医療の国イシャバーナの女王ヒメノ・ランでさえそうである。もちろん、スカートをはいていないからクィアであると言いたいわけではない。現実世界でも、女性表象の人がスカートをはかない場合その人はトランスジェンダー*4もしくはレズビアン*5である、といった思い込みは誤りです。スカートを纏うのが好きではないだけのシスジェンダー*6女性もいます。私のように。

 

キングオージャー自体もしくはリタのクィア性として気になるところのひとつに、恋愛要素がほぼ皆無であるという点がある。前述の通り、女性であるスズメは男性であるラクレスの婚約者候補という立場であるし、スズメが一方的にラクレスを好いているような描写はあったが、トウフの国益のために演技をしている可能性があったため微妙なところだし*7、五王国のひとつ、テクノロジーの国ンコソパの王ヤンマ・ガストがヒメノ初登場回で彼女にちょっと好意を表すような振る舞いをするシーンがあったが、それきりになっている。あとシュゴッド*8同士で片思い的な描写も一瞬あったが、同様にそれ以来触れられていない。リタに至っては一瞬の描写すらない。このように、恋愛感情を伴う関係性がほぼ描かれておらず、しかもその僅かな描写を蒸し返してこないところが、アセクシュアル*9とアロマンティック*10を今のところ自認している私にとっては、ストレスが少ないつくりになっている。もし意図しているのだとしたら大変ありがたい。

加えて、リタは性別が明らかになっていない。より正確に言うと、性自認*11性的指向*12が不明である。公式サイトのキャラクター紹介でも、ヒメノが「女王」と書かれているのに対し、リタは「国王」という表記になっている。女性あるいは男性として〜といった自認する性別を明言するセリフや、恋愛感情/対象に言及したりするなどの、自分のジェンダーアイデンティティを開示する、つまりカムアウトにあたるシーンは今のところなく ─シスヘテロ*13の人は無意識なんだろうけど、彼女/彼氏/嫁/旦那の存在を口にすることはカムアウトなんですよ─ 周りがリタに対して、特定の性別の人間に対してだけしがちな振る舞い(例えば「女/男のくせに」「(敵に向かって)女に手を出すとは〜」と言ったりとか)をするシーンもない。「〜だわ」「〜のよ」という話し方もしないし*14、敬語も使わないし、座る時は膝を合わせないし、周りもそれを当然のように受け入れていていちいち言及しない*15

 

リタとモルフォーニャの関係も実にクィアに見える。

リタにはモルフォーニャという女性(表象)の側近がいて、執務をサポートしている。が、リタは基本的にしごでき人間なので、戦闘を含む大抵の業務をひとりでこなしてしまう。モルフォーニャは内心そんなリタや自分に思うところがあるのだが、口には出せないでいる。しかし、ある時、ギラに「助けは無用だと(リタが)言ったのか」「言葉にできない思いは、体でぶつけるんだ」と言われたことがきっかけで、大規模戦闘の前に自室にいたリタを訪ね、もっふんが話しているという体で「世界が終わっちゃうなら、誰かの力を借りたっていいじゃん。もっふん(私)は、リったんと一緒にいたいよ」と伝え、もっふんの腕でリタを抱きしめるシーンがある。

リタがモルフォーニャに気持ちを返す場面もある。生きて帰れるかわからない戦いにモルフォーニャを巻き込まなければならなくなった時、それを察知して逃げようとするモルフォーニャに壁ドンかまし「これは仕事じゃない。公平でもない。私のために、一緒に戦ってほしい」と真っ直ぐ伝えたのである。さらに「あ〜〜………」と躊躇うモルフォーニャを震える手で抱きしめ、「……ずっと、一緒だから」と告げる。モルフォーニャは少し笑って、「………はい」と答える。

注:壁ドンやハグは、相手との関係性や状況によっては、相手に恐怖を与えてしまうことがあるので、基本的には同意を取ろう。

 

 

このように、公式がリタに向けるまなざしには、特定の性別のキャラクターにだけ期待されがちな役割や、特定の性別の人間であれという期待がほとんど含まれていない。私はリタがノンバイナリー*16か、アセクシュアルとアロマンティック、あるいはこのうち全部または複数のアイデンティティを持っているのではないかと思う。私はシスジェンダー女性なので、ノンバイナリー当事者としての言及はできないししてはいけないが、後者の当事者として、誰かのアイデンティティを勝手に推測することの暴力を知ったうえで、しかし、そうだったら嬉しいな、と思う。

アセクシュアルアロマンティックあるあるとして、

「恋愛をしたことがないなんて変だ/ありえない/人として大事なものが欠けているんだ」

「まだ本当に好きな人に出会っていないんだね」

「恋愛が要らないなんて強がり/負け惜しみでしょ」

「愛を知らないなんて薄情だ/かわいそうだ」

などなどのありがたいご意見をお見かけしたり言われたり、自分で自分にこのように言い聞かせてしまうことすらあるが、いわゆる恋愛感情や性愛を感じないだけであって、私たちは家族愛や友愛を感じたり、それを大切にすることができる。また、恋愛/性愛パートナーシップを持たないからといって、このクソッタレな世界を生きていくにあたり、あらゆるパートナーシップや他者とのつながりを必要としないわけではないし、拒絶しているわけではない。ひとりでなんでもやれるわけじゃない。ひとりで平気なわけでもない。先に挙げたリタとモルフォーニャのシーンはとても象徴的だと思う。誰かに自分の世界の一員でいてほしい。だからリタは応えたのだと思う。私にはそれがとても嬉しかった。

 

そのように在ることや居ることを誰にも侮辱されず、矯正させられず、憐れまれず、抑圧されず、なんの不利益もなく、なにと引き換えにするでもなく、何も損なわず、ただそのように在ることについて説明を求められることもなく、視聴者にも説明せず、リタがそこにいて他者たちの中で生きていることが、毎週私を喜ばせている。恋愛なしで生きていく、それはとても自然なことで、リタも私も完璧だ。私とリタが似ていたらいいのにと思う。私と同じものをリタも持っていてくれたらいいのに。ああ、リタ、クィアだったらいいのにな〜〜。

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おまけ

物語が第二章に突入したので髪を切ったそうです。素敵だよ。こないだはお誕生日おめでとう。私と1日違いでとっても嬉しい。

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*1:チャニング・テイタム主演映画「キングアーサー」のキャッチコピー

*2:余談だが、「変身」というかけ声は法律上仮面ライダーしか使用できないため、スーパー戦隊は多くの場合、戦隊名にちなんだかけ声で変身する。キングオージャーは「王鎧武装」(おうがいぶそう)である

*3:イシャバーナにて、子ども向けアニメ「もっふんといっしょ」が長年放送されており、CVはヒーロー番組御用達声優の大塚芳忠。作中ではフォーツカ・フォーチュンという名前になっている。実はこのアニメは、「神の怒り」の際両親を一度に亡くし王位に就いた幼いヒメノの心のケアのために、周りの従者たちが始めたものである

*4:出生時に判断された性別と、自認する性別が異なる人

*5:性自認の人で、かつ同様に女性を自認している人が恋愛対象である人

*6:出生時に判断された性別と、自認する性別が一致している人

*7:ラクレスはギラとの決闘裁判に敗れて崖から転落して以来、遺体が見つかっておらず、死亡扱いになっているのだが、つい最近、スズメはラクレスのこと結構ちゃんと好きだったのでは…?という描写があった

*8:王たちが操る、守護神のような立ち位置のロボット。王たちが搭乗し移動や戦闘に使用するものが各国1体ずつと、似せて作られた補佐的なデミシュゴッドも複数体ある。パイロットとは相性があり、誰でも搭乗できるわけではない。ラクレスに命じられて制御技術を確立させたのはヤンマ。複数のシュゴッドが合体することで巨大な人型ロボット・キングオージャーになり、巨大化した敵と戦う。なぜかギラだけシュゴッドたちと意思疎通ができる

*9:他者に恋愛感情を抱かない、もしくはほぼ抱かない人

*10:他者に性的な魅力や欲求を感じない、もしくはほぼ感じない人

*11:自分で自分の性別をどう思うか、という概念

*12:どんな人が恋愛対象であるか、という概念。フェチを指す性的「嗜好」と発音は同じだが意味は異なる

*13:シスジェンダーかつヘテロセクシュアルの人のこと。出生児に判断された性別と自認している性別が一致しており、かつ異性が恋愛対象である人

*14:ヒメノはする。それがステレオタイプで害悪であると言いたいわけではない

*15:ただ、リタを演じる平川結月(ひらかわゆづき)さんは公式YouTubeでのインタビューにヒメノ役の村上愛花(むらかみえりか)さんと共に出演し、「女性陣として〜」みたいなことを仰っているので、平川さんの解釈としてはリタはどちらかというと女性を自認するキャラクターなのではと思う

*16:性自認が男女二元論に当てはまらない人、当てはめたくない人など