頭の中のさまざまのこと

すきなこと、考えていること

ロードオブザ産廃の話

ゴミを捨てに行った。

 

 



 

 

6年ほど前、とある小劇団に制作スタッフとして正式加入した。大学生の時から手伝ってはいたので、付き合いは随分長い。制作とはいわゆる総務みたいなもので、公演の予約ページを作成したり、予約に関するあれこれを役者さんやお客様とやり取りしたり、公演期間中に受付周りをうろうろしたりする人です(うちの場合は)。劇団自体の発足はもっと前で、ありがたいことにお客様や役者さんたちに支えられて、今日まで公演を続けてきた。

つまり、ゴミが出るのである。

千穐楽最終ステージ終了後のお片付け*1の時、楽屋で出た家庭ゴミは劇場の規約に従って捨てていけることが多いのだが、大道具はそうはいかない。舞台美術さん経由でレンタルしたものは返却するとして、そのほかの細々したものはその時は捨てられないので、主宰や劇団員が自宅に持ち帰って一時保管することになる。木材とか、鉄パイプみたいなのとか。だから正確に言えば産業廃棄物に近い。そしてそういうのは、「また使うかもしれない」とか言ってとっておきがち。

そうして5年が経ち、主宰と劇団員の居住スペースが著しく脅かされるまでになった。そこで我々は、パンチカーペット*2より重い腰を上げ、ロードオブザ産廃の旅に出たのだ。

 

 

劇団員全員に招集がかかった(都合が悪くて不参加になった団員もいるが)。ゴミは劇団員数人の家に散在しているため、朝いちばんでレンタカーを借り、各家を回ってゴミを回収し、最後は事前に個人持ち込みの契約を済ませておいた産業廃棄物中間処理場に届ける、という計画である。

私は途中で拾ってもらい、上記過程の「各家を回って〜」からの参加となった。私は免許もないし、普段は車に乗る機会のない生活をしているので、誰かに車で迎えにきてもらうという非日常をたいへん楽しんだ。ハイエース、初めて乗った。はしゃぎぶりが伝わりすぎて、助手席のる?と運転手の主宰が尋ねてくれて、もちろん乗った。大きい!座席の位置が高い!「仕事の車」って感じだ。1軒目の団員の家の玄関でかわるがわるこちらを覗きにくる犬ちゃんたちに無限に手を振ったりした。

 

道中、主宰によるアラサー殺しの激エモドライブプレイリストをBGMに、みんなで色々話した。クレジットカードの引き落とし額を見て絶対に不正利用だと思って明細を確認すると全部合ってる話とか、ナンバガを再再結成させる*3ためにZAZEN不買運動をすべきか*4とか、フリーランスでやっている主宰は月収の変動が大きすぎて毎月末不安になるという話とか。これは聞きながら、やっぱりインボイス制度には反対すべきだなと気持ちを新たにした。あとは、いまいち連絡が取りにくい団員の生存確認の話とか、急遽ほかの劇団のお芝居にピンチヒッターでお呼ばれして稽古に行っている団員の、信頼されてて嬉しいねみたいな話とか、なかなか劇団員が増えない問題とか(ほんとうに募集してるんですよ、演劇をつくる側に興味ありませんか?)、あの劇団のお芝居がどうだとか、劇場レンタル費の値上げつらすぎ…の話とか(選挙に行こう!)。

性犯罪の被告人として係争に入った谷賢一の話*5にももちろんなった。平田オリザって意外と若いんだよな…などと少々脇道に逸れつつ、このまま膿を出し切ってしまわないといけないよなということで意見が一致した。主宰が今後演出などが何でもかんでもセクハラパワハラ扱いになるかもな的なことを(冗談で)言ったので、私は、「いや、そういう(性的な、あるいは身体的な接触がある)演出があることが問題なのではなく、それについて同意を取らないのが問題なので、きちんと信頼関係を築いたうえで事前に演出について説明して、必要なら擦り合わせをして、同意が取れていればいいんですよ」と話した。だよな、と言ってくれたのでよかった*6

 

 

近況だったり、お芝居のことだったり、そういうことをゆっくり話す時間は随分久しぶりだった。「あんまりこういう話しないから、みんなの近況を知らないんだよね」と誰かがぽつりと言った。コロナ禍に突入する前は、月1のミーティングはファミレスで行なっていた。別にそこで近況報告をし合っていたわけでもなかったけど、みんなで夕食をとりながらノートを広げたりしていた、あの中目黒の隅っこの夜たちが妙に懐かしい。

 

 

2軒目3軒目と大荷物が続いた。

劇団員のおうちに足を踏み入れるのは初めてだ。お邪魔しまあすと一応挨拶をして、生活感溢れるお部屋からゴミを持ち出す。ここで私は作業用手袋の持参を失念するというゴミ以下の失態を犯したため、主宰に軍手を借りた。ソウルメイト*7の手には木の棘が刺さり、借りたピンセットでも除去できなくて早々に諦めていた。

今回、木材は5年間ベランダに放置されると腐り、ビニールシートはボロボロと崩壊する、というありがたい学びを得た我々は、その代償としてゴミを運んだ経路、即ちお部屋及びマンション共用通路の即時お掃除を余儀なくされた。主宰は汗だくになりながらお部屋に散ったもはや泥状の木屑を拭い、私は借りた養生テープでビニールシートの破片をひたすらぺたぺたと回収した。運んだゴミはソウルメイトがパズルのようにハイエースの後部エリアに積み込んでくれて、終わった時にはもう人が乗れないんじゃないかというくらいの積載量となった。ロール状に巻かれたり段ボールにそのまま押し込められたりしているパンチカーペットの山、何に使ったか全くわからん謎の鉄パイプ、作ったベンチの一部、障子、古い照明器具、丸テーブルの天板、金網、大小長さも様々な腐った木材、雨晒しで濡れそぼった巨大なビニールシート、私物の椅子、などなど。

 

まあ、でも、全員乗れた。そしてまた他愛のない話をしながら、中間処理場へ向かった。土曜日だったけど処理場には多くのトラックがいて、そんな中ハイエースで個人持ち込みをしに来た私たちはかなり浮いていた。事務処理待ちの間にも、多くの業者さんたちが入れ替わり立ち替わりやってきては、手続きを待つ間車内で食事をとったりと慣れたようすで過ごしている。お疲れさまです!いつもお世話になってます!と挨拶して回りたくなった(どんなお仕事なのかわからないけど、絶対お世話になっているはずなので。いつもありがとうございます)。

しばらく待っているとスタッフさんがやってきて、持ち込んだゴミの簡単な査定ののち、支払になり、領収書とマニフェスト*8を発行してくれた。支払額に関してはちょっと多めに予算を取っていて、なんなら少し足が出るかもねと話していたところ、なんと半額以下で済んでみんなでびっくりした。ガチ業者さんたちの廃棄物に比べたらかわいいものだったのだろう。ぼったくられるかとも思っていたので、良心的で嬉しい限りだ。

事務所のある倉庫から、数百メートル先の廃棄場まで移動し、そこでも少し待機。そこではひたすら回転し続ける謎の機械や、木材をもしゃもしゃと噛み砕く重機が活躍していて、思わず見入ってしまった。子どもが「はたらくくるま」に惹かれる理由がよくわかる。そのうちに、防塵マスクで武装したスタッフさんの誘導で奥へ進み、ゴミを下ろしてもらった。座席側にも置いていたものは私たちで下ろしたけれど、後部エリアに積んでいたものはあっという間に片付けてくれて、あっさりと持ち込み処分は完了した。空っぽの後部に散りまくっていた木屑も軽く掃いてくれてありがたかった。やさしい〜〜。

 

 

 

回転寿司か何か食べに行くか〜と主宰が言い、私がおすし…!と食いついたため、お疲れさま会の会場は回転寿司屋さんに決定した。みんなでそれぞれ好きなものを好きなだけ食べた。私はハンバーグ寿司とかマヨコーン寿司とか許せるタイプなのでちょっと食べたり、ソウルメイトがお醤油と甘ダレをかけ間違えたり、役者の団員がデザートの甘さに苦戦したり、家族連れのテーブルめがけてレーンを滑っていく唐揚げを笑って見送ったり、楽しい時間を過ごした。みんなで食事もかなり久しぶりだった。お酒飲めないし、酒の席が特段好きなわけでもないので、私が打ち上げとかにほとんど行かないのが原因なんですが。

 

 

 

すっかり暗くなった外を走るハイエース。日が短いと気が滅入りますよね、なんて話しながら、昼間に並んでゴミを運んだ主宰の髪の先にほんの少しだけ白が見えた気がしたことを思い出した。ただのお手伝いさんだった頃を含めると、10年くらいの付き合いになる。この話をすると主宰はいつもソウルメイトを初対面のときは酒も飲めない未成年だったのに!と親戚のように懐かしみ、今や立派な酒飲みとなったソウルメイトはへらへらと笑う。役者の団員もぜんぜん変わらないように見えるけどきっと気づかないだけで歳を重ね…念のため2016年の写真を確認…ぜんぜん変わらないじゃん…怖…。

 

 

劇団員とも、劇団のお芝居を通じて顔見知りになった役者さんたちとも、演劇と無縁で暮らしていたらきっと言葉も交わさなかっただろう。なのに今こうして、一回り以上年上のこともある?人たちとときどき会って一緒にエンターテイメントをつくっている。この不思議なコミュニティの中に一応の居場所があるということの奇妙さと幸運に、ときどき酔ってしまいそうになる。

そして劇団員として団員と一緒にいると、ふとくすぐったさに途方に暮れることがある。輪に入れてもらって、たぶんもう場所は確保できていて、友達でも上司でもなくて、それが10年とか続いていて、これってもしかしてけっこう素敵なことなんじゃないだろうか。

 

 

 

 

給油をして、レンタカーを返却し、現地解散。このあとソウルメイトと線香花火*9をする予定だったのだけど、雨の足音が聞こえてきそうな気配があり、断念。湿気てしまわないうちにやろうね。冬の花火もきっとうつくしいよ。

 

それにしても、5年分はなかなかの量だった。話にも出ましたけど、これ今後毎年の定例イベントにしましょうね。

 

 

 

 

 

 

*1:舞台用語で「バラシ」。イントネーションは「嵐」と同じ。劇場に持ち込んだ大道具、小道具、事務用品や私物などを全て撤去し、劇場を現状復帰させること。小劇場の場合、公演最終日の最終ステージが終わったら、その日のうちにバラシまでやってしまうことが多いと思う

*2:劇場の床に敷く、不織布製の薄いカーペット。劇場の床は大抵木製で剥き出しなので、会社オフィスの床に見せたいとか、演出上板張りのままだと都合が悪い場合などに使う。耐久性があり、好きな形にカットもできるので便利。でも敷く時は床全体が対象になることが多くて量が必要だし、重いタイプのものもあるので、運んだり保管したりするのは結構大変

*3:NUMBER GIRL(ナンバーガール)という日本のロックバンド。解散していたが、RISING SUN ROCK FESTIVALという夏フェスで演奏したいという目標のために数年前に再結成され、ファンは泣いて喜んだ。しかし今年その目標が無事に達成され、さる2022年12月11日、ラストライブをもって再び解散した

*4:ZAZEN BOYS(ザゼンボーイズ)という日本のロックバンド。前述のNUMBER GIRLのギターボーカル、向井秀徳(むかいしゅうとく)の別バンド。こちらは現在も活動中。向井秀徳に「やっぱりナンバガで稼がないといけねえ」と思ってもらうために、わざと彼にカネを落とさない作戦でいくか…と半分冗談半分本気のファンが続出

*5:全ての人たちへ|大内彩加の雑記置き場|note

*6:役者さんたちが本心からNoと言える心理的身体的に安全な環境や関係の中でヒアリングする必要があることは忘れずにいたい

*7:これまでに何度か過去記事(直近では一緒に音楽フェスに行った記事→SAI 2022の話 - 頭の中のさまざまのこと)に登場したソウルメイトは、劇団員仲間でもあります。大学生の時、既に照明プランスタッフとして加入していた彼女に誘われて、私も裏方業務を手伝うようになったのが、私と劇団との出会いです

*8:マニフェスト|処理企業の方へ|公益社団法人 全国産業資源循環連合会

*9:一緒に参加した音楽フェスで観客に配られたお土産。詳しくは過去記事をどうぞ。SAI 2022の話 - 頭の中のさまざまのこと