頭の中のさまざまのこと

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新春浅草歌舞伎に行ってきた話

こんにちは。ギズモ参謀です。前回は愛の重さとイタさで地球の核まで沈んでいけそうな記事を書いてしまいまして、大変失礼いたしました。

今日は私の今年の芝居始めとなった新春浅草歌舞伎についてお話しします。

 

新春浅草歌舞伎とは

その名の通り浅草で毎年1月に1ヶ月間行われる歌舞伎公演です。若手の登竜門と呼ばれています。なぜなら、主に出演されるのは10代〜30代の若手役者さんたちで、普段は大ベテランさんしか勤めないような主役級のお役とかをお勤めになるからです。もちろん何人かベテラン役者さんがサポートで入られますが。

今は主役級のお役をバンバンお勤めの市川猿之助さん、中村勘九郎さん、七之助さん、片岡愛之助さんたちも、かつてはこの興行で修業されたそうです。私が歌舞伎にハマる前に。キーッ!悔しい!観たかった!

まあまあ、沼はご縁です。『60歳まではショタ』がモットーの私はもちろん下は3歳から上は80ウン歳まで幅広く推しがおりまして、この公演も推しだらけなので、観るのをとても楽しみにしていました。実際とても楽しかったのです。あまり歌舞伎に馴染みのない方も読まれるかもしれない前提ですのでまた長くなりますが、その時のことを書きます。

 

お年玉ご挨拶

まずは新春浅草歌舞伎名物、お年玉ご挨拶から始まります。本編が始まる前に、役者さんが日替りでご挨拶をします。私が観劇した日は尾上松也(おのえまつや)さんでした。サポートのベテランさんを除くと、座組では最年長(それでも30代ですが)の役者さんで、公演のリーダーです。

座したまま美しい響きのご挨拶が終わると、すぐマイク片手に立ち上がり、舞台をウロウロしつつ少し砕けた感じで話してくれるのが優しくて憎いです。たくさんのお客さんが来てくれてとても嬉しいこと、座頭としての責任感についてのほか、この後かかる演目の粗筋紹介までしてくれました。親切か。ありがたい。

あと大向(おおむ)こうの練習もしました。◯◯屋!って叫ぶやつです。大向こうは色々とアレがアレで大変な闇を抱えているので、変にハードルを下げるのはちょっとやめたほうが…と思ったのですが、松也さんがやりたいのなら是非もありません。推しの望みは叶えてやりたいのがファンってもんです。なので彼の屋号をシャウトしました。音羽屋(おとわや)!」

 

演目

さて、私が拝見したのは

第一部『傾城反魂香 土佐将監閑居の場(けいせいはんごんこう  とさのしょうげん  かんきょのば)』

義経千本桜 吉野山(よしつねせんぼんざくら  よしのやま)』でした。

この2つは全く別のお話です。豪華2本立てなのです。

第一部とあるからはもちろん第二部もあるのですが、私はある理由(後述)があって第一部のぶんのチケットしか買いませんでした。

ちなみに今回のお席は3階最前列。目の前が手摺です。音声のみでお楽しみました。前のめりダメ絶対。

 

傾城反魂香

吃又(どもまた)とも呼ぶそうです。吃音の人を指す『吃(ども)り』と、主人公の名前を合わせたのですかね。ちなみに『吃り』は現在では差別用語なので、よい子のみんなは使わないでね。ストーリー全容はこちらの神ブログをご覧ください。いつもお世話になっております。

「傾城反魂香」けいせい はんごんこうはんごんこう - 歌舞伎見物のお供

乱暴に申し上げると、吃音持ちの絵師又平とその奥さまが、絵の師匠から名字をもらいたくて(=一人前と認定してほしくて)頑張るお話です。『傾城反魂香』という長いお話から、『土佐将監閑居の場』という場面だけを抜粋したもので、もちろん前後のお話も存在するのですが、今はこの場面だけが上演されることが多いみたいです。そういう上演スタイルを『見取(みど)り』というらしいです。以下ざっと感想です。

坂東巳之助(ばんどうみのすけ)さん演じる又平。

痛々しいくらいの頑張り屋さんでした。うまく言葉が出なくても、伝えようとすること自体を決して諦めたりしないガッツの持ち主。やっと口にできた言葉で弟弟子に『様』まで付けて懇願した時、私の抱きしめたさがMAX。あたたかいココアをあげたい。

からの最期の自画像描き。ものすごい気迫でした。たぶん何にも考えてなかったんじゃないかな。スポーツでいうとゾーンに入ってる感じ。あとはキッカケだけ、運だけ、というところまで行けても、そこから先を掴めるのかは、日々の精進がモノを言うのだと思います。起こった奇跡はある意味奇跡ではなく、又平の才と精進の賜物だったのではないかと思います。又平おめでとう!晴れ着を着る様が誇らしげで、心なしか裃も嬉しそうでした。

中村壱太郎(なかむらかずたろう)さん演じる、又平女房おとく。

実際拝見するまではおしゃべり奥さまなのかと思っていましたが、印象は真逆でした。しゃべるけど、余計なことは一切言わないのです。ただ言うべきことを言って、又平の言葉を代わるだけ。一心同体。信頼関係がすごい。又平の代弁をする時も、又平が訂正を入れたがることは一度もありませんでした。ずっとそうして寄り添ってきたんだろうな、と、すぐにわかります。

そばにいてくれたら訳もなく泣けてきそうな女性です。あと鼓も打てるし、お綺麗だし。完璧。

中村梅丸(なかむらうめまる)さん演じる修理之介(しゅりのすけ)。

美少年。お師匠さま、ズルい!というレベル。最年少のお役ですが、梅丸さんご本人も座組では最年少です。リンクしていて楽しい。

名字をいただいても全く驕る様子がないのが上品で好感がMAX。お師匠さまのおうちでの振る舞いが勝手知ったる感じなのが、絵だけでない精進を感じさせます。又平に様付けで縋られて、苦しそうに振り切るのがつらい。素直で謙虚ないい子でした。

中村隼人(なかむらはやと)さん演じる狩野雅楽之助(かのううたのすけ)。

とりあえず床板を踏み鳴らす音がデカくてとても勇ましい。声もデカい。剥き身の刀を携えてやって来るので緊迫感がすごいです。

助けを呼びに来てるのにバッチリ華を振りまいてくれる隼人さん。出番は短いですが、印象が強すぎです。素敵。

大谷桂三(おおたにけいぞう)さん演じる土佐将監。

ベテラン枠そのいち。自分ちの庭に虎がいても全く動じない強メンタル。しかもその正体をすぐ見抜くことで、力量が伝わるようになってるのが憎い演出。あと煙管で煙草吸うのかっこよすぎ。歌舞伎ではお香を焚いたり煙草を吸うのをガチでやってくれるのですきです。嗅覚まで使って観る感じ。

お師匠さまも又平のこと本当は超カワイイかわいいしたいのだと思いますが、絵師として、そんな理由で名字をあげることはできないのがつらそうです。だから最後又平が泣いて喜ぶのを見て力強く頷いたり、裃を着てはしゃぐのを眺める姿の優しいこと。よかったですねお師匠さま、お疲れさまです。

中村歌女之丞(なかむらかめのじょう)さん演じる将監女房北の方。

ベテラン枠そのに。こちらもお師匠さまに絶妙な距離感で寄り添っていらっしゃるのですが、とても上品で、且つ、お師匠さまのお立場をとてもよくおわかりなのだなと思いました。お師匠さまが又平の涙ながらのお願いを何度はねつけても諌めないところとか。

でもとても優しいお方です。きっとお弟子さんたちのお世話とか焼いたりしてこられたんでしょうね。修理之介と又平が名字をいただいた時「でかしゃった(よくやった)、でかしゃった」ってメッチャ喜んでくれます。おとくのことも労ってくれます。超いいひと。裃のサイズまで気にかけてくださいます。尋ねる時の声も優しい。ママ。

 

主人公に何らかのハンデがある場合、そこに焦点が当てられがちだと思うのですが、私はこのお話はそうではないのだと感じました。

確かに又平には吃音というハンデがあります。当時はさぞ風当たりの強かったことでしょう。しかし又平が立ち向かわなくてはいけないのはそこではなく、如何にして絵師として結果を出し、師匠に認めてもらうのかだった気がします。純粋に絵師としての自分と戦う、アツい物語だったのだと思います。演目としても初見でしたが、とてもグッとくる素敵なお芝居でした。

 

吉野山

舞踊です。セリフもありますけど。実はお席の関係で終始ほとんど見えなかったので、書くことはあまりないんですが、華やかな雰囲気が最高の演目です。だいすきです。こちらも『義経千本桜』という長〜い物語の一部だけを切り取ったものになります。ストーリーはこちらの神ブログをどうぞ。

「道行初音旅」 みちゆき はつねのたび (「義経千本桜」) - 歌舞伎見物のお供

春のお話なので、背景は桜が満開で、天井にも花みたいなやつが吊ってあります。舞台上に姿を見せて歌を歌ったり楽器を演奏してくださる方々も、背景から浮かないよう、ピンク系のお色の裃を着ていらっしゃるのです。かわいい。全くの第三者としてではなく、いつも物語の一部として溶け込むようにそこにいてくださるので素敵です。未だに清元と竹本と常磐津の区別もつかない私ですけど、いつもありがとうございます。

 

グルメタイム

さて、華やかな気持ちで浅草公会堂を後にしたら、浅草グルメタイムの始まりです。

実は、私が初めて拝見した昨年の新春浅草歌舞伎では、1日で第一部と第二部を通して観劇するという強行スケジュールをブチ込んだために、全く浅草を歩けなかったのです。せっかくの遠出ですし、今回は第一部だけ観劇して、後はお食事を楽しむことにしました。

そして私にはありがたいことに、大変親切なツイッターのフォロワーさんがいらっしゃいます。浅草の美味しいお店をたくさん教えてくださいました。持つべきものは素敵な先輩です。その中から2軒、実際に伺うことができたので、そのことを書きます。

 

1軒目。ギャラリー・エフ。その名の通り、ギャラリーとカフェが併設されているアーティスティックすぎるお店です。「ギズモちゃんの雰囲気に合いそうだと思う」なんて紹介いただいたら、行くしかないじゃないですか。行ったんですよ。そしたら。

超絶好みだったんですよ。

通りに面してはいるんですが、控えめな小さいお店で、テーブル係は魔法でも使えそうな不思議な雰囲気のおばさまおひとり。これ知ってる。なんか都内のミニシアター1館で1日1回上映されるフランス映画でしょ。お店出て振り返ったらもうどこにも見つからないやつでしょ。知ってる知ってる。おまけに注文させていただく時におばさまから放たれた究極にポエティックでシネマティックでファンタスティックなセリフ「何にいたしましょう?」何?いま何て?もうだめ。私は天を仰ぎながらオムライスランチを注文しました。人間界の日本円で800円ちょっとくらい。

これがまた美味しい。先に出されたサラダも美味しかったです。オムライス、卵がお皿全体にとろとろにかけてあるんですけど、胡椒がアクセントになってまして、何となく朝ごはんのスクランブルエッグ感があって面白かったです。たぶん私あれ起き抜けでも完食できます。ほんとにすきなお味でした。

ギャラリー・エフ 浅草

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そして2軒目。紀文堂浅草総本店2階喫茶。1階はお持ち帰り用の人形焼を販売されてます。とっても美味しいみたいです。中村隼人さんも公演中はよく召し上がっておられるとか。いっぱい食べるきみがすきです。

今回は脇の階段でお2階へ。ご家族連れや外国人の方々、はたまた観光途中のご婦人方に混じって、たった1人で窓際に座る、私。最高にロックです。あんみつとみつまめで一瞬迷いましたが、ロッカーなのでよりロックなほうを選ばなければなりません。私はクリームあんみつを注文しました。これがパンクです。800円くらいでした。あたたかい日本茶付き。

こちらもとても美味しかったです。黒蜜って大体ちょっとしつこいからどうかなと思ったのですが、1滴残らずいただいてしまいました。パフェのやつみたいなサクランボが乗っててテンションがMAX。ロッカーたるもの童心を忘れてはいけません。yeah。

もはや気分はロンドンを拠点とするパンクロッカーだったので、長居は無用だぜとばかりに食べ終わってすぐにお会計を済ませ(ゆったりできる雰囲気のお店なので、みんなはゆっくりしていってね)、レジ対応してくださった素敵なおじさまにご馳走さまでしたを忘れずに言い、コートとマフラーを脇に抱えたまま強風吹き荒れる浅草へと降りていきました。ロンドンに比べたら全く寒くないぜと思ったのですが、普通に寒かったです。ロンドン行ったことありませんけど。

ご挨拶 | 浅草 紀文堂総本店

 

そんな感じで、私の最高の芝居始めは終わりました。ありがとう素敵な役者さんたち、ありがとう浅草。

また来年も観たいです。

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